昂希(こうき)は軽く笑い、驚き顔の菜月(なつき)を見た。
「お前、若旦那に惚れてんだな。」
昂希の言葉に、菜月の顔がかあっと熱くなった。
「それにうちのお嬢が気づいて、俺と結婚させて旦那を取られまいとした。 つまりお嬢とお前が俺を巻き込んだんだよ。」
彼の言葉は正論だった。
だが、しかし。
菜月は到底、納得出来ずに口を開いた。
「……私は、別に和雄さんに好かれてなんていない。 ただ好きでいるだけ。 それなのにこんな仕打ち……、突然夫ができて、気が狂いそうよ……。」
そう言うと、菜月は両手で頭を抱えてその場にへたりこんだ。
その様子を見かねた昂希はため息をついて、菜月に言葉をかけた。
「……とにかく、シャワー浴びてこいよ。 一息つけ。 疲れてんだろ。」
「一体、誰のせいよ……。」
思い悩む菜月を前に、昂希は再びため息をついた。
「俺とお前は同じ使用人同士だからな、その苦労は解るつもりだよ。」
「……私のこと、憎いんじゃないの?」
「……え?」
すっかり打ちひしがれた様子で、菜月は顔を上げて言葉を続けた。
「私はあなたのお嬢様と一緒に、あなたを巻き込んだのよ。 なのによく労いの言葉なんてかけられるわね、もう訳分かんない……。」
膝を抱えて身を縮める菜月を、昂希は気だるげにしばし見つめた。
「んー………、お前も被害者みたいなもんでもあるからな。 お嬢の旦那を好きになったのが運の尽きだってこと。 てか、若旦那なんかヤバくないか? 感情ないみたいだよな。 あれじゃあお嬢も可哀想かなとは思うし。」
「……和雄さんを悪く言わないで。」
突然、怒りを押し殺した低い声で言葉を吐いた菜月に、昂希は目を丸くして戸惑った。
「……怒んなって。 あーもう………、俺は何がなんでもお前とは夫婦でいなきゃなんねえんだ。 とにかく今日は出ていくから、また来るわ。 ……よく休めよ。」
呆れ気味にそう言うと、昂希はうずくまる菜月の横を通って部屋を出ていった。
背中でドアの閉まる音を聞きながら、菜月はあらゆる感情が入り乱れ、ただただ途方に暮れるのだった。
To be continued
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
労働が続くと、三連休が輝いて見えるようですね
世間、もうちょっと休みあってもいいと思うんですけどね
お互い頑張っていきましょう
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
昂希、けっこう良い奴かも
次回もお楽しみに
浅田 瑠璃佳