菜月(なつき)が和雄(かずお)に想いを伝えてからも、二人は時折、また以前のように、屋敷の中庭で落ち合っていた。
菜月はそんな穏やかな日々が、いつまでも続くものだと思っていた。
しかし、恐ろしいほどに。
恋というものは時に、人を狂わせてしまう。
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夏の暑さが嘘のように過ぎ去り、秋の涼しさに変わりつつあった、ある夜。
和雄の部屋に、菜月はいた。
彼女は窓の外の、激しい雨の様子を眺めていた。
和雄は部屋のソファーに座り、本に目を落としている。
「……すみません、もうそろそろ行きますね。」
菜月がおもむろに、和雄に声をかける。
その声に、和雄が本から顔を上げる。
「……もう、部屋に戻るのか?」
「……はい。 本を貸してくださり、ありがとうございました。」
「……。」
菜月は部屋を出ようと、ドアの前まで進む。
「(……でも、本当は………、本当は出ていきたくない。
離れたくない……!)」
思いを噛み締め、その場に立ち尽くす菜月。
その姿を、和雄は黙って見つめる。
「……何とも解せない。」
「……え?」
和雄の声に驚いて振り向く菜月。
「……当たりか。」
「……あなた様は、私の心を読める力をお持ちなのですか?」
「……いや、あくまで予想に過ぎない。」
「……あなたの読み通り、です。」
しばし見つめ合う二人。
「……出て行きたくないのなら、ここにいればいいじゃないか。」
和雄の言葉に動揺する菜月。
「……和雄さん、何をおっしゃいますか……あなたという人は!」
菜月の語気が強くなる。
「……落ち着け。」
「お、落ち着けるわけないでしょう。 あなた様だって分かっているでしょう!?
御曹司とメイドが二人きりで、長く同じ部屋にいるということが、どれだけ……許されないことか。」
「……お前、また泣きそうな顔をしている。」
「……!」
「……また前に言っていた、周りの目というやつか。」
「……そうですよ……。」
菜月は複雑な思いを胸に、和雄を強くにらみつける。
「……あなた様はやはり分かって下さらない、いつまで経っても。」
「……。」
「……あなた様と私では、やはりお立場が違うのです。 だから……遠い。
あなたとの距離は、あまりにも遠いのです。」
「……?」
「私がどんな思いで、部屋から出て行こうとしているのか……。」
「……やはり、解せない。」
「まだ、おっしゃいますか。」
菜月はそう言い、部屋を出て行こうとドアに向きなおった。
次の瞬間。
和雄は、菜月の背後にたたずんでいた。
吐息も、心臓の音でさえも聞こえてしまいそうなほど、すぐ近くに。
「……こんなに近くにいるのに、どうして遠いんだ……?」
和雄の言葉に、驚くより先に涙がこみ上げる菜月。
「……。」
「……お前の望みは何だ……?」
その和雄の思いがけない言葉に、菜月の中で何かが切れたような気がした。
そして、ある思いに支配された。
今までに抱いたことのない、どす黒い感情に。
「……私の望みは、あなたです。」
涙が菜月の、頬を伝う。
「あなたを、手に入れたい。」
そう言って振り向いた菜月の目は、強く和雄を見つめていた。
「……では、お前の望み、叶えてやろう。」
そう言って、和雄はゆっくりと菜月を抱え、ベッドに運ぶ。
この時の菜月の表情は、一体どれほど恍惚としていただろうか。
外は雨が激しく降りしきる中、和雄は言葉通り菜月の望みを叶えた。
菜月は和雄を、肉体的に手に入れたのである。
一夜を共にした二人。
この先二人を待ち受ける困難など、この時はまったく、知る由もなかったのであった。
To be continued
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
物語の続きを、どうぞ楽しみにお待ちください。
~追伸~
TATSUさん、メッセージありがとうございます
白石監督が仮面ライダーですか
どんなふうになるか楽しみですね
rurika