読書感想文 | Papytat~東京農工大学生協読書部~

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ナカムラです。
読書感想文の時間です。


「シティ・オブ・グラス」 ポール・オースター

夜中に街を歩いていると、数限りないヒトとすれ違います。そうすると、
「この中にヒトでない生き物が一匹くらい混じってても気づかないだろう」とか
「この中で生きることに特化して進化した霊長類がいるかも」
とか思ってしまったり。ズバリそんなテーマで書かれた短編
「ふさわしい人々」(ウィリアム・ギブスンの「クローム襲撃」に収録かな?)を読んだ時には
「あー、やっぱこんなこと考える人ってほかにもいたんだ」と
妙に納得しました。

都市伝説の本が基本よく売れるのも、身近な都市の方が「幻想」の在処にふさわしいと思ったり
するからなのかもなあ。

で、「シティ・オブ・グラス」ですが。
舞台はニューヨーク。主人公は作家。街の描写も、登場人物たちの会話も、
実に映画的でオシャレ。

オシャレなのですが、そのオシャレな会話やドライで透明感のある文体の向こうには
陰惨な暴力の気配があります。もちろんニューヨークですから、
毎日犯罪者が銃を撃ち、クモ男がそいつらをとっちめたりしているわけです。
けど、「シティ・オブ・グラス」を読んでると、
より純粋で抽象的な暴力の存在がガラス越しに臭うような気がします。

というか、そう言う気配を感じさせてくれる作品が好き。
カポーティの「ミリアム」とか「夜の樹」とか。
村上春樹の作品にも、そんな気配が濃厚。あの人はかなり意識的に
「暴力」を描写してると思います。(てか、どっかでそんなこと本人が言ってなかったっけ)

ヨーロッパの文芸作品は、その土地の歴史に結びついたりすることが多いのですが、
アメリカの文学はそうした背景がヨーロッパに比べて希薄なせいか、
暴力の形がバックグラウンドのない、ある意味「薄気味悪い」恐怖として感じ取れたりします。
こいつは、ジョーカーのような「嗤う狂気」とは違う味わいがあってなかなか乙なものです。
「この街は腐ってやがるぜ…」ってノリも好きですけど。

以前ちょろっと書いた「低俗霊Daydream」という漫画が好きなのは、
そんな暴力の一端に触れるような作品だからかも知れません。


なんだかんだ、非常にイヤな単語の並ぶ感想文になってしまいましたが。
「シティ・オブ・グラス」は別に狂気や暴力の蔓延する都市の話ではありませんから。
オモシロイヨ。ぜひどうぞ。