4月14日は、ヘレン・ケラーの家庭教師「奇跡の人」アン・サリヴァンが生まれた日(1866年)だが、インドの活動家、アンベードカルの誕生日でもある。
ビームラーオ・ラームジー・アンベードカルは、1891年、英国の直接統治下のインド中西部のマハーラーシュトラ州のラトナーギリー地区に生まれた。
インドのヒンドゥー教世界には身分制度「カースト制」があって、人は出身身分により、
「バラモン」
「クシャトリヤ」
「バイシャ」
「シュードラ」
の4階層に分かれ、職業、結婚、食事などが厳しく制限されていたが、アンベードカルが生まれたのは最下層からさらに下のカースト外、不可触民(ダリット)の家庭だった。
アンベードカル少年は成績優秀だったが、触れるとけがれる人種だという差別は常についてまわり、学校でも差別された。授業中、教師に指名されて前の黒板に書かれた問題を解こうと彼が立ち上がると、いっせいに他の生徒たちが黒板に殺到したという。黒板のもとにみんなの弁当が置いてあったが、アンベードカルが近づくと汚染されて食べられなくるので、先に避難させようとしたのである。
藩王国のマハラジャの奨学金を得て、アンベードカルはムンバイ(ボンベイ)の大学に入り、米国のコロンビア大学や英国ロンドン大学に留学し、奴隷制解放や大英帝国の経済を学んだ。第一次大戦中を留学生として過ごした彼は、1917年、26歳のとき帰国した。
当時のインドは、ガンディーやジンナーらの独立運動の時代で、そんななか、アンベードカルは不可触民への差別撤廃運動を開始した。
36歳になる年、アンベードカルはムンバイ近郊の貯水池で、大勢の支持者を率いて、貯水池の水を手ですくって飲むパフォーマンスを行った。池の飲み水がけがされたと怒ったヒンドゥー教徒に襲撃され、多数の負傷者が出、アンベードカルも負傷した。ヒンドゥー教徒たちは、けがされた池を清めるため、牛の糞尿を詰めた器を池に沈め、これで清められた、水が飲めると安堵したという(ヒンドゥー教では牛は聖なる生き物で、その糞尿もまた聖なるものとされる)。
ヒンドゥー教徒を刺激しないようカースト制を残してインド独立を成し遂げようとするガンディーらと、インド人同士の亀裂につけ入ろうとする英国側とのあいだで、アンベードカルは苦悩しつつ交渉、活動を続けた。
インド独立が成ったのは1947年、アンベードカルが56歳のとき。彼はネルー内閣の法務大臣となり、憲法草案起草委員会の議長に就任した。そして、世界一長いとされる憲法の草案作りに関わり、インド国民の法の下の平等、自由や、信教の自由、女性の権利が明記された憲法を成立させた。
その後、彼は差別撤廃運動、宗教研究にまい進し、支持者30万人を率いていっせいに仏教へ改宗し、仏教再興に尽力するなどした後、糖尿病が悪化し1956年12月に没した。65歳だった。
日本にも、水平社、天皇制、少数民族、移民、在日などなど差別問題のキーワードは数多あり、アンベードカルの課題は他人事でない。
それにしても彼がインド独立運動のさなか、逮捕されたマハトマ・ガンディーが死を賭した断食を続けている監獄を、アンベードカルが訪ねた場面は印象的である。双方の受容と主張と妥協、お互いへの尊敬と理解、そして両者の苦渋の決断がインドの独立をもたらした。こんな愛と苦しみに満ちた交渉場面はめったにあるものではない。
(2026年4月14日)
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