9月12日は、不屈のサッカー選手、長友佑都(ながともゆうと、1986年)が生まれた日だが、ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムの誕生日でもある。SF映画の傑作「惑星ソラリス」の原作者である。

スタニスワフ・ヘルマン・レムは1921年、ポーランドのルヴフ(現在のウクライナ、リヴィウ)で生まれた。父親はユダヤ系の医者で、母親はカトリック、裕福な家庭だった。
知能指数が180と図抜けた頭脳をもっていたスタニスワフは、医学大学に進んだ。
隣のドイツでヒトラーが政権をとったのがスタニスワフ・レムが12歳の年、ナチス・ドイツがチェコに侵攻したのがレムが18歳の年で、同年、ドイツはレムの国ポーランドへ軍を進め、ついに第二次世界大戦が始まった。
レムが医科大生になったのはその翌年だった。医科大で生物学や数学を学ぶかたわら、哲学や文学にも造詣を深めたレムは、ナチス・ドイツの占領下で動員され、自動車工、溶接工として働いたが、レジスタンスにも協力していた。ユダヤ人である彼の一家は偽造パスポートで暮らしていたという。
大戦が終わったのが、彼が21歳になる年だった。米ソ対立の冷戦時代が始まった。
故郷のルヴフはソ連領となり、レム家の財産は没収された。
レムはポーランド南部へ引っ越し、医学を学んだ。が、ソ連のイデオロギー支配の下に置かれたアカデミズムの状況に絶望し、医学をやめた。彼は科学研究員として働きながら、SF小説を書くようになった。
30歳のころ、小説『金星応答なし』が好評を博し、プロの作家となった。
以後、『マゼラン星雲』『失われざる時』『エデン』『ソラリスの陽のもとに』『砂漠の惑星』『完全な真空』『虚数』『大失敗』などを書いた。
金十字功労賞、クラクフ市文学賞、ポーランド復興十字勲章など数々の賞やメダルを受けた後、レムは2006年3月、クラクフで没した。84歳だった。

レムの代表作『ソラリスの陽のもとに』は、二度映画化されている。
一度目はロシアの名匠アンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』であり、二度目は米国のスティーヴン・ソダーバーグ監督による『ソラリス』である。
タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』は、SF映画の頂点のひとつと言われているが、自分もDVDを買って何度も観ている。
未来の都市交通網として撮影された、当時の東京の首都高速道路が出てきて、漢字の書いてある案内標識がちらちら見えるのが楽しい。また、無重力状態のシーンにバッハの音楽が使われていて、坂本龍一は、こういう映画音楽を作らなくてはいけないんだ、と悔しがり絶賛していた。
なんとも苦々しい、ため息の出る名品である。
『ソラリス』は、異性物・異文明とのコミュニケーションの不可能性を主題に据えた問題作だけれど、こういうことを考えつく頭脳が、人類の種にあるというのが驚きだった。IQ180というと、やっぱり凡人の想像外ということだろうか。脱帽する。
スタニスワフ・レムは、すでに故人ではあるが「これからの作家」なのにちがいない。
(2025年9月12日)


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