3月10日は、1945年のこの日に、米軍B29爆撃機344機が東京上空をおそった東京大空襲があった日であり、至上のポップシンガー、松田聖子(1962年)が生まれた日だが、ヴァイオリニスト兼作曲家、パブロ・サラサーテの誕生日でもある。

パブロ・マルティン・メリトン・デ・サラサーテ・イ・ナバスクエスは、1844年、スペイン北部のパンプローナで生まれた。父親はバスク人で軍楽団のバンドマスターだった。
パブロは5歳のときから、父親についてヴァイオリンを習いはじめ、8歳ではじめて演奏会のステージに立ち、その秀でた才能は当時すでに周囲に認められていた。
10歳のとき、マドリードの宮廷で演奏を披露し、女王イサベル二世からヴァイオリンの名器、ストラディヴァリウスを与えられた。
留学資金の援助を得て、12歳で、パリ音楽院に入学。17歳のとき、音楽院のコンテストで最優秀賞を受賞。以後、欧州、北米、南米などを広く演奏ツアーをしてまわった。
サラサーテはその純粋な音色と超絶技巧で知られるヴァイオリン演奏の名手で、ブルッフ、サン=サーンス、ラロ、ドヴォルザークらの作曲家たちが彼のために曲を寄せた。
サラサーテは自身でもヴァイオリン曲を書き、その代表作が、ジプシーの民謡を生かした「ツィゴイネルワイゼン」、ビゼーの「カルメン」を生かした「カルメン幻想曲」である。
長く患った気管支炎がもとで、サラサーテは、1908年9月、仏国ビアリッツで没した。64歳だった。

自分がサラサーテの曲をはじめて聴いたのは、小学校の音楽の授業中だった。音楽室で、教師がレコードをかけてくれたのは、やはり、彼の代表作「ツィゴイネルワイゼン」だった。耳慣れないその変わった名前とともに、哀調を帯びた個性的な旋律が印象的で、当時クラシック音楽にまったく関心のなかった自分にも、その作曲者名と曲名が、なぜか一度で記憶に刻み込まれ、以後忘れたことがない。個性というのは、こういうことである。

「ツィゴイネルワイゼン」は管弦楽の付いたヴァイオリン曲なのだけれど、曲全体から、
「オーケストラは、まずヴァイオリンありき、である。音楽の中心は、ヴァイオリンである。この事実を、くれぐれも忘れないように」
という強烈なメッセージが、まず感じられる。
この楽曲は、3部構成になっているが、第1部は、悲壮感あふれる、きわめて個性的な旋律ではじまり、第2部の甘美な、流れるような演奏をはさんで、第3部の、もうヴァイオリンを弾いて弾いて弾きまくるぞ、といった華麗なエンディングで幕を閉じる。すべてが印象的な部分で構成されていて、一瞬の手抜きも感じられない。
ことヴァイオリンに関しては、モーツァルトもベートーヴェンにも口だしさせないぞ、といった、サラサーテの強烈な主張が屹立している。
(2025年3月10日)



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