2月19日は、地動説のコペルニクスが生まれた日(1473年)だが、作家、村上龍の誕生日でもある。

 村上龍は、1952年、長崎県佐世保市で生まれた。本名は、村上龍之介。両親はともに教師だった。村上は、武蔵野美術大学在学中に書いた小説『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞し、同作品で芥川賞も受賞。以後、『海の向こうで戦争が始まる』『コインロッカー・ベイビーズ』『テニスボーイの憂鬱』『69』『愛と幻想のファシズム』『トパーズ』『五分後の世界』『ヒュウガ・ウイルス』などつねに時代を揺さぶる話題作を発表してきた。作家としての活動のほか、ラジオやテレビのパーソナリティー、映画監督、ウェブ・マガジン編集、キューバ・ミュージシャンの公演プロモーションなど、幅広い分野で活躍している。

 村上龍のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』は、ロックとファックとドラッグを前面に打ちだしたスキャンダラスな風俗小説で、百万部以上売れた大ベストセラーである。発売直後は売り切れ続出で、地方の書店では入手しづらかった。それでも発売数日後に一冊見つけて手に入れ、すぐ読んだ。痛烈におもしろかった。以来、聖書のような愛読書となり、読み返すたびに、おもしろさに感嘆している。一つひとつのエピソードが刺激的で、次々に飛びだしてくる作者のイメージが新鮮で、胸にジュワァッとしみこんでくる。だが、これを読んでおもしろかったと言う人に、いまだ出会ったことがない。たいていの人の感想は「わからなかった」「むずかしかった」というものだった。
一方、村上の長編『コインロッカー・ベイビーズ』は、読んでおもしろくなかったという人に、いまだ会ったことがない。読んだ人はみんな「あれは、すごい」「最高だった」と、興奮ぎみに語る。

『コインロッカー・ベイビーズ』はたしかに「すごい」小説だった。
あの小説は、たしか村上龍が、デビュー作で得た大金をつかい果たし、講談社に二千万円くらい借金をして、長編を書いてその印税で返すからと講談社の山荘に缶詰めになって書いたものだった。そして、三百枚くらい書いた時点で、李恢成の『見果てぬ夢』を読んで反省し、書いた原稿をすべて捨て、また最初から書きはじめた、そうしてでき上がった作品だった。背水の陣に立った作家の人生がかかった、全身全霊を打ち込んだ自身の存在証明で、三島由紀夫でいえば『仮面の告白』にあたる重要な作品である。だから、作者の熱が読者に伝わらずにいないのだろう。

若いころの村上龍にサインをもらったことがある。彼の著書を差しだし、
「座右の銘をお願いします」
とお願いすると「座右の銘なんてないよ」とつぶやいた後「坂本のまねをして勇気と書こう」と言って「勇気!」と書いてくれた。そのサイン本はいまももっている。
「勇気」とは、およそ文人の揮毫らしくない、スポーツ選手などが書きそうな日常的なことばだけれど、ゲーテも、エリック・ホッファーも、勇気こそ大切だと言っている。勇気を失うくらいなら、いっそ生まれてこなければよかった、と。
「勇気」の後に感嘆符が付いているのが、村上龍らしい。
(2025年2月19日)



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