3月24日は、映画俳優スティーブ・マックイーンが生まれた日(1930年)だが、英国の詩人兼デザイナー、ウィリアム・モリスの誕生日でもある。
ウィリアム・モリスは、1834年、英国イングランドのウォールサムストーで生まれた。父親はシティ(ロンドン株式市場)の株式仲買人で、家は裕福だった。ウィリアムは10人きょうだいの上から4番目で、彼らのうち、成長したのは3人だけだった。
ウォルター・スコットの小説を愛読する少年ウィリアムは、6歳のとき、ウッドフォードの大邸宅へ引っ越すと、屋敷のまわりの広大な森のなかを駆けまわり、釣りし、ポニーにまたがってあちこちへ遠出し、自然に親しんだ。
彼が13歳のとき、父親が没した。ウィリアムは聖職者を志してオックスフォード大学に入学したが、成人し父親のばく大な遺産を相続すると、急に芸術家志望に変わった。
建築家を手伝い、画家ロセッティと知り合って画家を目指した彼は25歳のとき、ロセッティの絵のモデルだった女性と結婚し、設計から装飾まですべてを友人と彼自身で手がけた邸宅「レッド・ハウス」を作って、そこを新居とした。
絵描きをやめた彼は、仲間と装飾工芸品を制作する会社を興し、壁紙や壁掛け、ガラス製品、家具など工芸美術品を作りだした。草花をデザイン化してあしらったカーテンやソファーが、無味乾燥だった英国家庭に様式美をもたらした。それは、前世紀の産業革命によって職人たちが仕事を追われ、いまは工場で機械の歯車のひとつとなって、煙突と煙の街に押し込められている人間疎外の社会に対する反逆だった。
30代のころ、モリスは叙事詩『地上の楽園(The Earthly Paradise)』を発表。これは、ペストの流行を避けて旅立った者たちが、旅の途中でさまざまな物語に出会う内容の物語詩で、この作品によってモリスの名声は英国中にとどろいた。
モリスは、絹などの布地を自分でデザインして染めてテキスタイル販売をしたり、ステンドグラスを作っていたが、49歳のころにマルクスの『資本論』を読んで共感し、社会主義活動にも精を出すようになった。
56歳のとき、小説『ユートピアだより(News from Nowhere)』を発表。これは、眠りについた主人公が目を覚ましてみると、そこは百数十年後、21世紀のロンドンで、煙突も、お金も存在しない社会主義のユートピアが実現されていた、という話だった。
テキスタイル・デザインのほか、本のデザインも手がけたモリスは、英国王室御用達の桂冠詩人に推されたが辞退し、1896年10月、結核のため、ロンドンで没した。62歳だった。
作品に『世界のかなたの森(The Wood Beyond the World)』『世界のはての泉(The Well at the World's End)』などがある。
夏目漱石はモリスの『地上の楽園』を愛読、絶賛した。漱石の弟子、芥川龍之介の東大の卒業論文は『ウイリアム・モリスの研究』だった。
「モダンデザインの父」モリスは、ファンタジー小説の開祖でもある。『指輪物語』のトールキンも大きく影響を受けた。グラフィックデザイナーで詩人で作家で社会運動家。創造性のかたまりのような人で、「器用貧乏」ならぬ「器用富豪」である。若くして遺産をもらうと、急に坊主になるのをやめた、その英断の賢明さに脱帽する。
(2021年3月24日)
●おすすめの電子書籍!
『ブランドを創った人たち』(原鏡介)
ファッション、貴金属、高級品などの世界のトップブランドを立ち上げた人々の生を描く人生評論。エルメス、ティファニー、ヴィトン、グッチ、シャネル、ディオール、森英恵、サン=ローランなどなど、華やかな世界に生きた才人たちの人生ドラマの真実を明らかにする。
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ウィリアム・モリスは、1834年、英国イングランドのウォールサムストーで生まれた。父親はシティ(ロンドン株式市場)の株式仲買人で、家は裕福だった。ウィリアムは10人きょうだいの上から4番目で、彼らのうち、成長したのは3人だけだった。
ウォルター・スコットの小説を愛読する少年ウィリアムは、6歳のとき、ウッドフォードの大邸宅へ引っ越すと、屋敷のまわりの広大な森のなかを駆けまわり、釣りし、ポニーにまたがってあちこちへ遠出し、自然に親しんだ。
彼が13歳のとき、父親が没した。ウィリアムは聖職者を志してオックスフォード大学に入学したが、成人し父親のばく大な遺産を相続すると、急に芸術家志望に変わった。
建築家を手伝い、画家ロセッティと知り合って画家を目指した彼は25歳のとき、ロセッティの絵のモデルだった女性と結婚し、設計から装飾まですべてを友人と彼自身で手がけた邸宅「レッド・ハウス」を作って、そこを新居とした。
絵描きをやめた彼は、仲間と装飾工芸品を制作する会社を興し、壁紙や壁掛け、ガラス製品、家具など工芸美術品を作りだした。草花をデザイン化してあしらったカーテンやソファーが、無味乾燥だった英国家庭に様式美をもたらした。それは、前世紀の産業革命によって職人たちが仕事を追われ、いまは工場で機械の歯車のひとつとなって、煙突と煙の街に押し込められている人間疎外の社会に対する反逆だった。
30代のころ、モリスは叙事詩『地上の楽園(The Earthly Paradise)』を発表。これは、ペストの流行を避けて旅立った者たちが、旅の途中でさまざまな物語に出会う内容の物語詩で、この作品によってモリスの名声は英国中にとどろいた。
モリスは、絹などの布地を自分でデザインして染めてテキスタイル販売をしたり、ステンドグラスを作っていたが、49歳のころにマルクスの『資本論』を読んで共感し、社会主義活動にも精を出すようになった。
56歳のとき、小説『ユートピアだより(News from Nowhere)』を発表。これは、眠りについた主人公が目を覚ましてみると、そこは百数十年後、21世紀のロンドンで、煙突も、お金も存在しない社会主義のユートピアが実現されていた、という話だった。
テキスタイル・デザインのほか、本のデザインも手がけたモリスは、英国王室御用達の桂冠詩人に推されたが辞退し、1896年10月、結核のため、ロンドンで没した。62歳だった。
作品に『世界のかなたの森(The Wood Beyond the World)』『世界のはての泉(The Well at the World's End)』などがある。
夏目漱石はモリスの『地上の楽園』を愛読、絶賛した。漱石の弟子、芥川龍之介の東大の卒業論文は『ウイリアム・モリスの研究』だった。
「モダンデザインの父」モリスは、ファンタジー小説の開祖でもある。『指輪物語』のトールキンも大きく影響を受けた。グラフィックデザイナーで詩人で作家で社会運動家。創造性のかたまりのような人で、「器用貧乏」ならぬ「器用富豪」である。若くして遺産をもらうと、急に坊主になるのをやめた、その英断の賢明さに脱帽する。
(2021年3月24日)
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