12月11日は、細菌学者ロベルト・コッホの誕生日(1843年)だが、作家モーリス・ルブランの誕生日でもある。「怪盗ルパン」の生みの親である。
モーリス・マリー・エミール・ルブランは、1864年、仏国ノルマンディー地方の古都、ルーアンで生まれた。ルーアンの学校をへて、ドイツやイタリアに遊学したモーリスは、フランスのパリ出て法律の勉強をした。しかし、これを途中でやめ、警察詰めの事件記者となって雑誌に記事を書いたり、犯罪小説などを書いたりするようになった。
ルブランはもともと純文学志望だったらしいが、30代のころまでは、ぱっとしない、売れない作家、ジャーナリストだった。
ルブランが40歳のころ、英国ではコナン・ドイルが書いた名探偵シャーロック・ホームズ・シリーズが人気を博していたが、ある編集者が、これをヒントに、似たような探偵小説を雑誌に書くよう、ルブランにすすめた。
ルブランは、知人をモデルにして、探偵でなく泥棒の主人公を作り上げ、短編『ルパンの逮捕』を書き上げ、雑誌に発表した。フローベールやモーパッサンのようなものを書きたいと希望し、こういうものに興味がなかったルブランは、ルパンものは一回こっきりのつもりで、話の結末をつけた。
すると、この短編が大好評で、雑誌の編集部から「ぜひこの続編を」と催促されるようになった。ルブランはこう言ってことわったという。
「物語の最後でルパンは投獄されることになった。だから、もう続きはないんだよ」
すると、編集者はこう返したという。
「そんなことは簡単だ。脱獄させればいいんだよ」(モーリス・ルブラン著、竹若理衣訳「アルセーヌ・ルパンとは誰か?」『ルパン、最後の恋』早川書房)
それで仕方なくルブランは、続きを書き、その後約30年にわたってルパンものを書きつづけた。ベストセラーとなった小説中のルパンは単なる泥棒から華麗な怪盗紳士へと成長し、弱者を救い、悪者をこらしめ、フランス国家の危機を救う大活躍をして、フランス国内はもちろん、世界中にファンをもつ小説中のヒーローとなった。
この国民的英雄の創造に対して、ルブランはレジオンドヌール勲章を授与された後、1941年11月、ペルピニャンで没した。七六歳だった。
怪盗アルセーヌ・ルパンは、少年時代以来のわがアイドルである。ルパン・シリーズはすべて読んだ。このシリーズの好きなところは、作中に恋の香りがいつも漂っているところで、「怪盗ルパン」は推理小説であると同時に、恋愛冒険小説である。女っ気のまったくないシャーロック・ホームズとは対照的である。
恋する怪盗紳士ルパンの結婚は悲劇に終わることが多い。小説のなかで彼は何度か結婚しているけれど、彼の奥さんになった女性は、出産時に亡くなったり、結婚してすぐ修道院に入ってしまったり、ピストルで撃たれて死んだりしていて、ルパンは幸福な結婚生活をなかなか送ることができない。そういう、悲劇的な側面が、泥棒稼業の裏打ちになっていて、それがルパン・シリーズを強くしているのだろう。
ルパンは晩年、バラを栽培して余生を送った。ホームズは晩年は養蜂である。その辺も英仏で対照的で興味深い。
(2020年12月11日)
●おすすめの電子書籍!
『世界文学の高峰たち 第二巻』(金原義明)
世界の偉大な文学者たちの生涯と、その作品世界を紹介・探訪する文学評論。サド、ハイネ、ボードレール、ヴェルヌ、ワイルド、ランボー、コクトー、トールキン、ヴォネガット、スティーヴン・キングなどなど三一人の文豪たちの魅力的な生きざまを振り返りつつ、文学の本質、創作の秘密をさぐる。読書家、作家志望者待望の書。
●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.jp

モーリス・マリー・エミール・ルブランは、1864年、仏国ノルマンディー地方の古都、ルーアンで生まれた。ルーアンの学校をへて、ドイツやイタリアに遊学したモーリスは、フランスのパリ出て法律の勉強をした。しかし、これを途中でやめ、警察詰めの事件記者となって雑誌に記事を書いたり、犯罪小説などを書いたりするようになった。
ルブランはもともと純文学志望だったらしいが、30代のころまでは、ぱっとしない、売れない作家、ジャーナリストだった。
ルブランが40歳のころ、英国ではコナン・ドイルが書いた名探偵シャーロック・ホームズ・シリーズが人気を博していたが、ある編集者が、これをヒントに、似たような探偵小説を雑誌に書くよう、ルブランにすすめた。
ルブランは、知人をモデルにして、探偵でなく泥棒の主人公を作り上げ、短編『ルパンの逮捕』を書き上げ、雑誌に発表した。フローベールやモーパッサンのようなものを書きたいと希望し、こういうものに興味がなかったルブランは、ルパンものは一回こっきりのつもりで、話の結末をつけた。
すると、この短編が大好評で、雑誌の編集部から「ぜひこの続編を」と催促されるようになった。ルブランはこう言ってことわったという。
「物語の最後でルパンは投獄されることになった。だから、もう続きはないんだよ」
すると、編集者はこう返したという。
「そんなことは簡単だ。脱獄させればいいんだよ」(モーリス・ルブラン著、竹若理衣訳「アルセーヌ・ルパンとは誰か?」『ルパン、最後の恋』早川書房)
それで仕方なくルブランは、続きを書き、その後約30年にわたってルパンものを書きつづけた。ベストセラーとなった小説中のルパンは単なる泥棒から華麗な怪盗紳士へと成長し、弱者を救い、悪者をこらしめ、フランス国家の危機を救う大活躍をして、フランス国内はもちろん、世界中にファンをもつ小説中のヒーローとなった。
この国民的英雄の創造に対して、ルブランはレジオンドヌール勲章を授与された後、1941年11月、ペルピニャンで没した。七六歳だった。
怪盗アルセーヌ・ルパンは、少年時代以来のわがアイドルである。ルパン・シリーズはすべて読んだ。このシリーズの好きなところは、作中に恋の香りがいつも漂っているところで、「怪盗ルパン」は推理小説であると同時に、恋愛冒険小説である。女っ気のまったくないシャーロック・ホームズとは対照的である。
恋する怪盗紳士ルパンの結婚は悲劇に終わることが多い。小説のなかで彼は何度か結婚しているけれど、彼の奥さんになった女性は、出産時に亡くなったり、結婚してすぐ修道院に入ってしまったり、ピストルで撃たれて死んだりしていて、ルパンは幸福な結婚生活をなかなか送ることができない。そういう、悲劇的な側面が、泥棒稼業の裏打ちになっていて、それがルパン・シリーズを強くしているのだろう。
ルパンは晩年、バラを栽培して余生を送った。ホームズは晩年は養蜂である。その辺も英仏で対照的で興味深い。
(2020年12月11日)
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