5月17日は、作曲家エリック・サティが生まれた日(1866年)だが、アイルランドの音楽家、エンヤの誕生日でもある。

エンヤは、1961年、アイルランドのドニゴール県で生まれた。アイルランド語の本名の発音に近い英語表記で、英語名をEnya Brennan (エンニャ・ブレナン)といい、日本では「エンヤ」と呼ばれている。彼女は9人きょうだいの6番目の子で、父親は元バンド・リーダーの居酒屋経営者で、母親はダンス・バンドの演奏者で、後に音楽教師になった。
エンヤは19歳のころから、音楽一家のきょうだいや叔父たちが組んだ親族バンドに参加し、キーボードとバックコーラスを担当していた。
彼女が21歳のとき、マネージャーといっしょにバンドを離脱し、ソロ活動をはじめた。
インストゥルメンタル曲を発表し、映画「カエルの王子」に曲を提供した後、エンヤは25歳のとき、英国のテレビ局、BBCのドキュメンタリー番組「ケルツ」のサンウンドトラック用に曲を書いた。このサウンドトラックが、英国のレコード会社の社長の目にとまり、アルバムの制作依頼が彼女のもとに舞い込んだ。そうして作ったアルバムが歴史的名盤「ウォーターマーク」だった。
1988年、27歳のとき発表された「ウォーターマーク」は、世界的な大ヒットとなり、シングル曲「オリノコ・フロウ」も世界中でヒットした。当時のことについて、彼女はこうコメントしている。
「ウォーターマークの成功にはびっくりしました。音楽が商業的なものだと考えたことがなかったので。それまで音楽は、自分にとってごく個人的なものだったので」
以後、1曲の録音に数カ月かけ、新しいアルバムを発表するまでに5年ほどかかるという、スローペースで彼女は作品を発表しつづけてきた。
アルバムに「シェパード・ムーン」「メモリー・オブ・トゥリーズ」「ア・デイ・ウィズアウト・レイン」「アマランタイン」などがある。

エンヤの音楽は独特である。
誰もいない、天井の高い大きな教会で録音したかのような、残響音が響く独特の音楽は、144チャンネルの音声を同時録音できるデジタルマルチトラッカーという機械を使って、楽器や声の音を百回以上も重ねて録音しているのだそうで、それでああいう、魂が洗われるような、美しい、不思議な音ができあがるのだった。

エンヤの楽曲を聴いていると、幻想の泉にからだを浮かべているような、ぼんやりとしたいい気持ちになって、とても癒される。
これはアーティスト自身には直接関係のないけれど、米国などでは、マリファナを吸いながら聴く音楽として、エンヤは好まれる。エンヤとか、喜多郎とか、あるいはジョン・レノンもそうだと思うけれど、彼らはドラッグと相性のいい音質、声質をもっていて、それが、彼らの楽曲が世界中でよく売れた一因にちがいないと、自分はひそかに信じている。これは、彼らの音や声の質が、人間の精神のある部分を、根本的なところで癒すヒーリング効果をもっている、そういうことなのではないか。
(2015年5月17日)



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