3月16日は、ロシアの作家、ゴーリキーが生まれた日(1868年)だが、映画監督、ベルナルド・ベルトリッチの誕生日でもある。
自分がはじめて観たベルトリッチ作品は、マーロン・ブランド主演の「ラストタンゴ・イン・パリ」だった。露骨なセックスシーンを撮る監督という印象をもった。

ベルナルド・ベルトリッチは1941年、イタリア北部の街パルマで生まれた。母親は教師で、父親は詩人で映画評論家だった。ベルナルドには弟がひとりいて、弟は舞台監督になった。文化的に恵まれた環境で育ったベルナルドは、15歳のころから詩や文章を書きはじめ、父親の影響力もあって、若くして文学賞を受賞した。
ベルナルドは、父親のように詩人志望だったが、大学で文学を専攻していたころ、映画監督のピエル・パオロ・パゾリーニの本の出版を助けたのが縁で、20歳のとき、パゾリーニの「アッカトーネ(乞食)」で助監督を務めた。映画にひかれたベルトリッチは、大学を途中でやめ、22歳のとき、パゾリーニが脚本を書いた映画「殺し」で監督デビュー。以後、「暗殺の森」「ラストタンゴ・イン・パリ」「1900年」「ラストエンペラー」「シェルタリング・スカイ」「リトル・ブッダ」「ドリーマーズ」などを発表。問題作、大作を撮る世界的巨匠として知られる。

ベルトリッチは、ジャン=リュック・ゴダール監督の映画「勝手にしやがれ」に刺激されて映画を志したと言われる。そして、師事したのがパゾリーニ監督というのだからすごい。かつて映画評論家の淀川長治が、こう言っていた。
「フェリーニやヴィスコンティは『映画の神様』であり、ゴダールやパゾリーニは『映画の悪魔』である」
だから、ベルトリッチは「悪魔」側の人ということになる。

自分の印象では、ベルトリッチ監督は個性的ではあるけれど、さらに異常性の強いゴダールやパゾリーニに比べれば、まだまともである。ベルトリッチは、観客のことを配慮した商業映画として一定のレベルをはずさない、良識を備えた監督だと思う。だから、出資者やプロデューサーも、ベルトリッチなら任せられる安心感があるのではないか。

はじめてアナル・セックスを描いたと言われる問題作「ラストタンゴ・イン・パリ」をはじめとして「ラストエンペラー」「シェルタリング・スカイ」「ドリーマーズ」など、ベルトリッチ作品は、性描写に監督の悪魔的な特徴があらわれていると思う。

「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」で音楽を担当した坂本龍一が、以前テレビで言っていてたが、「ラスト・エンペラー」の際、ベルトリッチはなかなか彼に音楽を依頼してこず、さんざん引っ張って待たせた挙げ句に連絡してきて、
「1週間で作ってくれ」
と無理を言った。坂本はそれを2週間に延ばしてもらい、ほかの仕事をすべてキャンセルし、その仕事に没頭した。数十曲の映画用音楽を作り、編集が加えられて刻々と長さが変わっていくフィルムに合うようにその都度長さを調整して仕上げたという。
ベルトリッチは「悪魔」の助手をしていたような人だから、人間の都合など知ったことか、映画さえよければいいのだ、そういうことなのだろう。そういう強さは、すてきだと思う。
(2014年3月16日)


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