1月30日は、『アメリカの鱒釣り』の作者、リチャード・ブローティガンが生まれた日(1935年)だが、マンガ「サザエさん」の作者、長谷川町子の誕生日でもある。
自分が物心ついたときには、すでに「サザエさん」は国民的な存在だった。テレビで、江利チエミさんが主演した実写ものの「サザエさん」や、青島幸男主演の「いじわるばあさん」をよく見ていた。どちらもとてもおもしろかった。

長谷川町子は、1920年、佐賀の多久で生まれた。三人姉妹のまんなかだった町子は、教師の似顔絵やマンガを描いて友だちに見せるマンガ少女だったが、一面、いじわるをする男の子をやっつけるやんちゃな娘でもあった。
14歳のとき、父親が没し、彼女たち一家は上京した。
彼女は高校生のころから、「のらくろ」の作者、田河水泡に師事。15歳で2ページのマンガ「狸の面」を雑誌に発表し、マンガ家デビュー。戦前からマンガの連載をもった。
終戦直後の26歳のとき、福岡県の地方紙に「サザエさん」を発表。以後、この4コママンガは「新夕刊」「朝日新聞」と掲載紙を替えながら、54歳まで連載が続いた。並行して、週刊誌に「エプロンおばさん」や「いじわるばあさん」を連載。
「サザエさん」や「いじわるばあさん」はテレビでドラマ化、アニメ化された。とくに「サザエさん」は、延々と放送が続き、2014年現在も続いている怪物番組となった。
姉とともに、姉妹社を創設して、著作権管理をおこなっていた長谷川町子は、生涯独身を通し、1992年5月、心不全のため、没した。72歳だった。

テレビアニメの「サザエさん」は、長谷川町子が作ったキャラクターをもとに、作品ごとに、別々の人が脚本を担当しているので、作者が没した後も延々と続けられているわけで、」サザエさん」のこういう「基本的なキャラクターだけは変えずに、あとは自由に動かして」方法は、モンキー・パンチの「ルパン三世」の先駆だったといえる。

テレビアニメ「サザエさん」の安定感には、感心させられる。
会社勤めをする夫と、家庭を守る専業主婦という、高度成長時代のごく平凡な、しかし、実際にはありそうもない家庭をほのぼのと描いて、状況がまったく変化しないテレビアニメ「サザエさん」の太さときたら、かなわない、という感じがする。
自殺者の増加や、ニートの問題、ホームレスの増加、ブラック企業、介護問題など、時々に噴出してくるあらゆる社会問題を無視して、テレビアニメ「サザエさん」は淡々と続いていく。登場する子どもたちは成長しないし、みんな老けていかない。男たちは、早朝出勤もないし、徹夜で残業してくることもない。数字に追いかけられてノイローゼにおちいることもなく、いつまでたっても定年退職にならない。
逆に、作者の長谷川町子が描いていた4コマの「サザエさん」は、つねに時代に敏感に反応し、痛烈な社会風刺を心がけていた作品だったので、その意味で、テレビアニメ版のほうは、本来の「サザエさん」がもっていた批判精神を完全に骨抜きにした、みごとな換骨奪胎の例だと言える。
だから、テレビアニメの「サザエさん」は、古き良き時代の西部の街を見せるディズニーランドと同じで、かつてあった、破壊されていまではなくなってしまったものを見せて、郷愁を誘うタイプのエンターテイメントの一種だと言えるだろう。
それが悪いわけではないけれど、テレビを観終わった後、テーマパークを出た後、周囲を見まわしても、いま見てきたようなものはどこにも見当たらない。
(2014年1月30日)




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