1月18日は、タレント兼映画監督のビートたけし(北野武)が生まれた日(1947年)だが、児童文学作家のA・A・ミルンの誕生日でもある。『クマのプーさん』の作者である。
『クマのプーさん』は原題を"Winnie-The-Pooh"という。まだウィンドウズ95が発売される以前のころ、自分はある英書を翻訳していて、このタイトルに出くわした。書名だということはわかったが、日本でどういう題名に訳されているかわからなかった。そこで、米国へ行って著者に会ったとき、本人に直接聞いてみた。彼女は説明した。
「子ども向きの有名な本よ。きっとあなたも知っているわ。クマが主人公の話」
自分はきっと『プーさん』にちがいないと察しをつけた。帰国してから調べてみると、果たしてそうだったので、ほっとした。まだネット検索どころか、インターネット自体ない時代のことで、以来、このタイトルは忘れようとしても忘れられない。
アラン・アレクサンダー・ミルンは、1882年、英国ロンドンのハムステッドで生まれた。父親は学校を経営していて、アランは小さいときそこに通った。8歳のころ、その学校にH・G・ウェルズが教師として在籍していて、彼はこの『タイム・マシン』『透明人間』を書いた大SF作家の授業を受けたことがあるという。
ケンブリッジ大学を出たミルンは、雑誌の編集者となり、第一次世界大戦がはじまると、軍隊の情報部で宣伝用の記事を書いた。
第一次大戦後は文筆家となり、評論、戯曲や推理小説を書いた。
ミルンは31歳で結婚し、38歳のとき、夫婦のあいだに男の子が生まれた。その息子、クリストファー・ロビンのために、ミルンは息子がもっているぬいぐるみたちが活躍するという童話を書いた。そして、それをイラストレーターと組んで絵本とし出版した。それが『クマのプーさん』で、「ウィーニー・ザ・プー」の名は、ロンドンの動物園にいるクマの名前「ウィーニー」と、白鳥の名前「プー」をくっつけたものだった。
この絵本は世界的な大ベストセラーとなり、モデルになったクリストファー・ロビンのぬいぐるみたちは、米国の出版社の企画で、大西洋を渡り、全米を巡業ツアーしてまわったという。その後、ディズニーがこれをアニメ・キャラクター化し、さらに世界のすみずみまで流布していった。
ミルンは、1956年1月、イーストサセックス州のハートフィールドで没した。74歳だった。
『クマのプーさん』は、拙著『名作英語の名文句』でも取り上げた。
主役のクマのプーさんは、なかなか独善的な思考力の持ち主で、その言動がとてもおもしろく、興味深い。日本人にも、プーさんのような考え方をする人は、たくさんいると思う。
典型的な例だと、たとえば、ハーヴァード大学のマイケル・サンデル教授が、目的論的論法の限界を示す例として、こういうエピソードを取り上げていた。
あるときプーさんが森のなかを歩いていると、ある木の上のほうから、ブンブンいう音が聞こえてきた。プーさんは考える。
あのブンブンいう音には、なにか意味があるはずだ。自分が知っているブンブンいう唯一のものはミツバチだ。自分が知るかぎり、ミツバチがなぜミツバチでいるかというと、それはハチミツを作るためである。なぜハチミツを作るのかといえば、自分が知るかぎり、それは自分が食べるためである。そして、プーさんは木を登りはじめる。
ものごとの意味をその目的から考えようとすると、どうしても、自分の知識の範囲内で目的を考えようとするので、しばしば考えを誤る。その一例としてサンデル教授は取り上げていた。このくだり、プーさんはとても滑稽で、ハーヴァードの学生たちは笑っていた。けれど、自分は笑えなかった。まるで自分を見ているようで。
(2014年1月18日)
●おすすめの電子書籍!
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句』(越智道雄選、金原義明著)
「クマのプーさん」「風と共に去りぬ」から「ハリー・ポッター」まで、英語の名作の名文句(英文)を解説、英語ワンポイン・レッスンを添えた新読書ガイド。
『1月生まれについて』(ぱぴろう)
ビートたけし(北野武)、村上春樹、三島由紀夫、盛田昭夫、夏目漱石、ちばてつや、デヴィッド・ボウイ、エイゼンシュテイン、スタンダール、モーツァルトなど1月誕生の31人の人物評論。人気ブログの元となった、より詳しく、深いオリジナル原稿版。1月生まれの教科書。
http://www.meikyosha.com
『クマのプーさん』は原題を"Winnie-The-Pooh"という。まだウィンドウズ95が発売される以前のころ、自分はある英書を翻訳していて、このタイトルに出くわした。書名だということはわかったが、日本でどういう題名に訳されているかわからなかった。そこで、米国へ行って著者に会ったとき、本人に直接聞いてみた。彼女は説明した。
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アラン・アレクサンダー・ミルンは、1882年、英国ロンドンのハムステッドで生まれた。父親は学校を経営していて、アランは小さいときそこに通った。8歳のころ、その学校にH・G・ウェルズが教師として在籍していて、彼はこの『タイム・マシン』『透明人間』を書いた大SF作家の授業を受けたことがあるという。
ケンブリッジ大学を出たミルンは、雑誌の編集者となり、第一次世界大戦がはじまると、軍隊の情報部で宣伝用の記事を書いた。
第一次大戦後は文筆家となり、評論、戯曲や推理小説を書いた。
ミルンは31歳で結婚し、38歳のとき、夫婦のあいだに男の子が生まれた。その息子、クリストファー・ロビンのために、ミルンは息子がもっているぬいぐるみたちが活躍するという童話を書いた。そして、それをイラストレーターと組んで絵本とし出版した。それが『クマのプーさん』で、「ウィーニー・ザ・プー」の名は、ロンドンの動物園にいるクマの名前「ウィーニー」と、白鳥の名前「プー」をくっつけたものだった。
この絵本は世界的な大ベストセラーとなり、モデルになったクリストファー・ロビンのぬいぐるみたちは、米国の出版社の企画で、大西洋を渡り、全米を巡業ツアーしてまわったという。その後、ディズニーがこれをアニメ・キャラクター化し、さらに世界のすみずみまで流布していった。
ミルンは、1956年1月、イーストサセックス州のハートフィールドで没した。74歳だった。
『クマのプーさん』は、拙著『名作英語の名文句』でも取り上げた。
主役のクマのプーさんは、なかなか独善的な思考力の持ち主で、その言動がとてもおもしろく、興味深い。日本人にも、プーさんのような考え方をする人は、たくさんいると思う。
典型的な例だと、たとえば、ハーヴァード大学のマイケル・サンデル教授が、目的論的論法の限界を示す例として、こういうエピソードを取り上げていた。
あるときプーさんが森のなかを歩いていると、ある木の上のほうから、ブンブンいう音が聞こえてきた。プーさんは考える。
あのブンブンいう音には、なにか意味があるはずだ。自分が知っているブンブンいう唯一のものはミツバチだ。自分が知るかぎり、ミツバチがなぜミツバチでいるかというと、それはハチミツを作るためである。なぜハチミツを作るのかといえば、自分が知るかぎり、それは自分が食べるためである。そして、プーさんは木を登りはじめる。
ものごとの意味をその目的から考えようとすると、どうしても、自分の知識の範囲内で目的を考えようとするので、しばしば考えを誤る。その一例としてサンデル教授は取り上げていた。このくだり、プーさんはとても滑稽で、ハーヴァードの学生たちは笑っていた。けれど、自分は笑えなかった。まるで自分を見ているようで。
(2014年1月18日)
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