10月27日は、ミシンの改良者、アイザック・シンガーが生まれた日(1811年)だが、芸術家、ロイ・リキテンスタインの誕生日でもある。
近年は、リキテンシュタインは自分のもっとも好きな画家のひとりで、画集も何冊かもっている。あの画面構成の単純明快さがいいと思う。

ロイ・リキテンスタインは、1923年、米国のニューヨークで生まれた。ユダヤ系の家庭で、父親は不動産屋だった。ロイには、姉がひとりいた。
ロイが通学した高等中学には美術の授業がなかったため、彼は十代になると、デッサンや油彩画を独学で学んだ。
リキテンスタインは画家志望だったが、芸術で生計を立てていけるか危ぶんだ両親が教職免許をとるよう勧めたこともあって、17歳になる年に、美術学士課程のあるオハイオ州立大学の美術学部に入学。22歳で卒業。修士課程をへて、25歳で大学の美術講師になった。
グループ展や個展で作品を発表する一方で、大学での教鞭もとりつづけ、27歳のとき、ニューヨーク州立大学の助教授に就任した。
33歳の年に、リトグラフ「10ドル紙幣」を発表。
37歳のとき、ミッキー・マウスとドナルド・ダックを描いた油彩画「ごらん、ミッキー」、広告写真をデフォルメした油彩画「ボールをもつ少女」を発表。広告イメージを作品化し、また、マンガをひとコマを拡大、変形し、くっきりした輪郭線と、写真製版のような丸い網点、そして少ない色数で表現する作画法を確立し、ひと目見ればリキテンスタインの作品とわかるポップ・アートを創り出した。
同様の作画法で、マンガを題材にした作品のほか、絵の具の絵筆の軌跡をデザイン化した「ブラッシュストローク」や、ゴッホやピカソ、モネなどの名作をいかに機械的に描くかに挑戦した模写的作品群、あるいは、反射光をポップ・アートで表現した「鏡」シリーズなどを制作した。
1997年9月、肺炎のため、ニューヨークで没した。73歳だった。

東京都現代美術館にあるリキテンスタインの「ヘア・リボンの少女」を見た。1990年代に東京都が約6億円で購入し、「マンガに6億円」「相場より高値で買った」などと物議をかもした作品である。
122センチ四方の正方形のキャンバスいっぱいに、金髪女性が振り向いた顔が米国マンガ風にアップで描かれた絵で、画面のすみに髪のリボンが見えている。構図といい、色調といい、リキテンスタインの最高傑作のひとつかもしれないと思った。使われている色彩は、黒、赤、黄、青、白の5色のみ。シンプルさと、強いインパクト。顔の傾きも絶妙の角度だと思う。

リキテンスタインの生前に作られたドキュメンタリー映画を見たことがある。68歳のリキテンスタインは、こういう意味のことを言っていた。
「わたしは自分描いた絵を、誰かににもって、飾っていてもらいたいのです」
そのことばを聞いて、自分はリキテンスタインがどうしてああいう作品を作るのか、すこしわかった気がした。彼の絵は、オフィスやホテル、家の壁にかけておくにふさわしい明るさ、洗練、デザイン性に富んでいる。
リキテンスタインは、大衆性と洗練、そして明快な個性という現代芸術に求められるポイントを押さえた、まさに現代的な巨匠だったと思う。
(2013年10月27日)



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