6月11日は、韓国の女優、チェ・ジウ(1975年)、日本の女優、新垣結衣(1988年)が生まれた日だが、独国の作曲家、リヒャルト・シュトラウスの誕生日でもある。
自分がはじめて買ったコンパクト・ディスク(CD)は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」だった。指揮は46歳当時の小澤征爾で、演奏はボストン交響楽団。
何も予備知識もなく、買ったのだが、聴いてみると、たちまち大好きな愛聴盤になった。

リヒャルト・ゲオルク・シュトラウスは、1864年、独国(当時はバイエルン王国)のミュンヘンで生まれた。父親は、ミュンヘンの宮廷歌劇場の首席ホルン奏者だった。
幼いころから父親に音楽教育を受けたリヒャルトは、6歳で作曲をはじめた。
そして、父親の職場であるオペラ劇場に出入りし、オーケストラの副指揮者から、音楽理論や管弦楽法を教わったという。
18歳の年に、彼が書いたヴァイオリン協奏曲が初演され、同じ年、彼はミュンヘン大学に入学し、哲学と芸術史を学んだ。が、1年後には、ベルリンへ越して、オーケストラの副指揮者になった。以後、指揮者としてオーケストラを率いながら、作曲を続け、交響詩「ドン・ファン」「ツァラトゥストラはかく語りき」「ドン・キホーテ」、歌劇「サロメ」「ばらの騎士」、「家庭交響曲」「アルプス交響曲」などを書いた。
1933年、ヒトラーが首相になったとき、シュトラウスは69歳だった。ナチス政権下、彼は第三帝国の音楽院総裁の地位にあり、ひとり息子の嫁がユダヤ人というむずかしい立場にあったが、なんとかしのいで終戦を迎えた。戦後は、ナチ協力者としての非難も浴びた。ちなみに、日独伊三国協定のからみで、シュトラウスは76歳のころ、日本のために「日本の皇紀二千六百年に寄せる祝典曲」を書いている。
1949年9月、シュトラウスはバイエルン州で没した。85歳だった。

自分は、リヒャルト・シュトラウスの曲は、いろいろと聴いている。CDもたくさん持っている。いちばんのおすすめは、やはり交響詩「英雄の生涯」である。
これは、シュトラウスが34歳のときの作品だそうだ。冒頭、大空をタカが風をきって飛ぶような颯爽としたテーマが流れ、恋の場面や、困難と戦う場面があった後、偉大な業績が完成し、英雄は引退し、曲は静かに終わる。無理解な世間や批評家の非難にめげず、自分の芸術を完成させようとするシュトラウス自身の生きざまを描いたとも言われるこの楽曲は、原題を、Ein Heldenleben という。このドイツ語の響きもかっこいい。
はじめて買ったCDということもあって、自分はこの曲を繰り返し繰り返し聴き、何回聴いたか知れない。仕事で文章を書いたりするときなど、よく流していた。この曲を聴きながらだと、筆がよく進むような気がした。
ところが、いつか、女の子の友だちに貸したら、返ってこなくなってしまった。催促しても、わかったようなあいまいな返事をするばかりで、一向に返そうとしない。なくしたのだか、手離すのが惜しくなったのだか知らないが、これには困った。
仕方なく、カラヤンがベルリン・フィルを指揮した「英雄の生涯」を買って、それを聴いて待っていたが、待ちきれず、結局もう一度オザワ・ボストン響のCDを買い直し、催促するのをやめた。いまだに返ってきていない。そういうわけで、自分はカラヤンと、オザワの子弟の指揮を聴き比べるようになったという、いわくつきの曲なのだけれど、いま聴いても、やっぱりいい。心が洗われ、奮い立たせられる、そんな気がする。
生きていると、わけのわからないことに出会うこともある、と、そう自分に教えてくれた曲である。
(2013年6月11日)


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