3月11日は、1984年のこの日、アニメ映画『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督)が封切られた日だが、オーストラリア出身のメディア王、ルパート・マードック(敬称略、以下同)が生まれた日でもある。
1996年に、日本のマスコミがいっせいに「メディア王マードック、日本上陸」と騒ぎたてたことがあった。
これは、ソフトバンクの孫正義と、ニューズコーポレーションのマードックが組んで、日本で衛星デジタル放送「JスカイB」を立ち上げ、同時にテレビ朝日の株式を大量に買い取って、同社の筆頭株主に躍り出た事実を指していた。これによって、孫とマードックは、テレビ朝日の番組を横流ししてもらって、JスカイBでも放送することを目論んでいたとも言われるが、この株式取得は明らかに、テレビ朝日の支配権を彼ら新参者がにぎろうとすることでもあった。
テレビ朝日の大株主である朝日新聞は、これに反発し、結局、孫・マードック側が、テレビ朝日の株を朝日新聞へ売却して撤退。一件落着ということになった。
この一件で、この「世界のメディア王」の名前は、一躍日本でも知られるようになり、自分もそのときに「マードック」という名前を知った。
「ふうん。金融関係じゃなくって、メディア関係で世界に君臨する、そういうやり方もあるんだ」
そう思った。
キース・ルパート・マードックは、1931年、オーストラリア南東部の街、メルボルンで生まれた。英国、アイルランド、スコットランドの血を弾いていて、父親は地方紙の経営者だった。ルパートには、3人のきょうだいがいたが、3人はいずれも女の子だったため、彼は小さいころから、父親の跡継ぎとして育てられた。
マードックが英国のオクスフォード大学在学中の21歳のとき、父親が没した。彼は父親のビジネスを引き継ぐため、急きょオーストラリアへ帰国。父から受け継いだ夕刊紙「アデレード・ニューズ」紙の売り上げを伸ばして成功させると、ライバル紙だった「アドバタイザー」を合併吸収、南西部の街パースの日曜紙「サンデー・タイムズ」を買収、シドニーのタブロイド紙「ミラー」を買収と、拡大路線をひた走り、「ミラー」をセンセーショナルな紙面作りで、シドニー最大の大衆紙に育て上げた。
オーストラリアでの成功を踏まえ、マードックは、学生時代を過ごした英国に進出。
37歳の年に、ロンドンの大衆日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を、翌年に夕刊紙「サン」を買収。「サン」の第三面に、毎日、トップレスの女性のヌード写真を掲載するという手法で、経営不振にあえいでいたこのタブロイド紙を復活させた。
50歳の年には、英国の高級紙「タイムズ」を買収。
52歳のころ、英国のケーブルテレビ「スカイ・テレビ」を買収。
53歳のとき、米国の「21世紀フォックス」を買収。
54歳のとき、米国国籍を取得。これは、米国のテレビ局を所有する者は米国市民でなくてはならないという、米国の法規制に対処するためのもので、米国籍を得たマードックは、「21世紀フォックス」を通じて「フォックス・テレビ」を開始。
74歳のとき、当時世界最大のソーシャル・ネットワーク・システムだったマイスペースを買収。マードックが支配する、グループの持ち株会社であるニューズコーポレーションは、新聞、テレビ、インターネットと、いよいよ世界中のさまざまなメディアを傘下におさめるマルチメディア・コングロマリットとなった。
メディア王。
ニューズコーポレーションがメディアを支配するといっても、その総帥であるマードックがいちいち指図をして、ニュースや番組を放送、報道するわけではないので、一つひとつの情報が一色に染まることはないだろう。でも、マードックの方針に沿った色めがねを通してものを見せられるわけなので、受けて側はどうしても、マードックの価値観に影響されるようにはなるだろう。
でも、実際には、マードックのグループがマルチ・メディアの分野で突出しているのではなく、タイム・ワーナー、ディズニー、バイアコムなど、もっと売り上げ規模が大きいグループもあるらしい。
世界のメディア分野では、もうかなり寡占化が進んでいて、知らぬ間に、自分たちの価値観は、すでにかなりの部分、誰かの色めがねを通してものを見るようになっている、ということだろう。
自分などは、ディズニーを筆頭とするハリウッド映画を、無批判に、なんの抵抗もなく、楽しんでみられる感覚は、すでに異常だという気がする。
下品、わいせつ、スキャンダル、売れるものならなんでもOK、という大衆路線で成功を収めてきたマードックが、日本ではどちらかというと品格を気にするほうのテレビ局であるテレビ朝日に口出しをはじめたら、果たしてどんなふうになったか、見てみたかった気もするが、彼らの資本参加撤退により、それは見られずじまいとなった。
日本の民放のかなりの部分がすでに、吉本芸人と、ジャニーズ・アイドルなど、大手芸能プロダクションの遊び場と化した観があるので、これ以上レベルを下げるのはむずかしいのでは、という見方もあるかと思う。マードックがそこを、さらにどう下げてくるか、が見物だったのだけれど。
マードック自身、あるいは、跡を継いだマードック・ジュニアによって、まだまだ、日本進出の第二幕、第三幕もあるかもしれない。
マードックはこう言ったそうだ。
「強い企業を築くことはできない、いちいち会議や役員会にはかっているようでは。経営者が自分自身で決定できるようにしなくてはならない」(You can't build a strong corporation with a lot of committees and a board that has to be consulted every turn.
You have to be able to make decisions on your own.)
21歳からメディア界頂点を目指して突っ走ってきた、旗幟鮮明な人生で、マードックという人は、まったくたいした人物だと思う。
(2013年3月11日)
著書
『新入社員マナー常識』
メモ、電話、メールの書き方から、社内恋愛、退職の手順まで、新入社員の常識を、具体的な事例エピソードを交えて解説。
『コミュニティー 世界の共同生活体』
ドキュメント。ツイン・オークス、ガナスなど、世界各国にある共同生活体「コミュニティー」を具体的に説明、紹介。
『1月生まれについて』
三島由紀夫、ビートたけしなど、1月に誕生した31人の人物評論。ブログの元となったオリジナル原稿版。1月生まれの教科書。
『12月生まれについて』
ゴダール、ディズニー、ハイネなど、12月誕生の31人の人物評論。ブログの元のオリジナル原稿収録。12月生まれの取扱説明書。
『ポエジー劇場 大きな雨』
カラー絵本。ある日、降りはじめた雨は、いつまでもやまずに……。不思議な雨の世界。
1996年に、日本のマスコミがいっせいに「メディア王マードック、日本上陸」と騒ぎたてたことがあった。
これは、ソフトバンクの孫正義と、ニューズコーポレーションのマードックが組んで、日本で衛星デジタル放送「JスカイB」を立ち上げ、同時にテレビ朝日の株式を大量に買い取って、同社の筆頭株主に躍り出た事実を指していた。これによって、孫とマードックは、テレビ朝日の番組を横流ししてもらって、JスカイBでも放送することを目論んでいたとも言われるが、この株式取得は明らかに、テレビ朝日の支配権を彼ら新参者がにぎろうとすることでもあった。
テレビ朝日の大株主である朝日新聞は、これに反発し、結局、孫・マードック側が、テレビ朝日の株を朝日新聞へ売却して撤退。一件落着ということになった。
この一件で、この「世界のメディア王」の名前は、一躍日本でも知られるようになり、自分もそのときに「マードック」という名前を知った。
「ふうん。金融関係じゃなくって、メディア関係で世界に君臨する、そういうやり方もあるんだ」
そう思った。
キース・ルパート・マードックは、1931年、オーストラリア南東部の街、メルボルンで生まれた。英国、アイルランド、スコットランドの血を弾いていて、父親は地方紙の経営者だった。ルパートには、3人のきょうだいがいたが、3人はいずれも女の子だったため、彼は小さいころから、父親の跡継ぎとして育てられた。
マードックが英国のオクスフォード大学在学中の21歳のとき、父親が没した。彼は父親のビジネスを引き継ぐため、急きょオーストラリアへ帰国。父から受け継いだ夕刊紙「アデレード・ニューズ」紙の売り上げを伸ばして成功させると、ライバル紙だった「アドバタイザー」を合併吸収、南西部の街パースの日曜紙「サンデー・タイムズ」を買収、シドニーのタブロイド紙「ミラー」を買収と、拡大路線をひた走り、「ミラー」をセンセーショナルな紙面作りで、シドニー最大の大衆紙に育て上げた。
オーストラリアでの成功を踏まえ、マードックは、学生時代を過ごした英国に進出。
37歳の年に、ロンドンの大衆日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」を、翌年に夕刊紙「サン」を買収。「サン」の第三面に、毎日、トップレスの女性のヌード写真を掲載するという手法で、経営不振にあえいでいたこのタブロイド紙を復活させた。
50歳の年には、英国の高級紙「タイムズ」を買収。
52歳のころ、英国のケーブルテレビ「スカイ・テレビ」を買収。
53歳のとき、米国の「21世紀フォックス」を買収。
54歳のとき、米国国籍を取得。これは、米国のテレビ局を所有する者は米国市民でなくてはならないという、米国の法規制に対処するためのもので、米国籍を得たマードックは、「21世紀フォックス」を通じて「フォックス・テレビ」を開始。
74歳のとき、当時世界最大のソーシャル・ネットワーク・システムだったマイスペースを買収。マードックが支配する、グループの持ち株会社であるニューズコーポレーションは、新聞、テレビ、インターネットと、いよいよ世界中のさまざまなメディアを傘下におさめるマルチメディア・コングロマリットとなった。
メディア王。
ニューズコーポレーションがメディアを支配するといっても、その総帥であるマードックがいちいち指図をして、ニュースや番組を放送、報道するわけではないので、一つひとつの情報が一色に染まることはないだろう。でも、マードックの方針に沿った色めがねを通してものを見せられるわけなので、受けて側はどうしても、マードックの価値観に影響されるようにはなるだろう。
でも、実際には、マードックのグループがマルチ・メディアの分野で突出しているのではなく、タイム・ワーナー、ディズニー、バイアコムなど、もっと売り上げ規模が大きいグループもあるらしい。
世界のメディア分野では、もうかなり寡占化が進んでいて、知らぬ間に、自分たちの価値観は、すでにかなりの部分、誰かの色めがねを通してものを見るようになっている、ということだろう。
自分などは、ディズニーを筆頭とするハリウッド映画を、無批判に、なんの抵抗もなく、楽しんでみられる感覚は、すでに異常だという気がする。
下品、わいせつ、スキャンダル、売れるものならなんでもOK、という大衆路線で成功を収めてきたマードックが、日本ではどちらかというと品格を気にするほうのテレビ局であるテレビ朝日に口出しをはじめたら、果たしてどんなふうになったか、見てみたかった気もするが、彼らの資本参加撤退により、それは見られずじまいとなった。
日本の民放のかなりの部分がすでに、吉本芸人と、ジャニーズ・アイドルなど、大手芸能プロダクションの遊び場と化した観があるので、これ以上レベルを下げるのはむずかしいのでは、という見方もあるかと思う。マードックがそこを、さらにどう下げてくるか、が見物だったのだけれど。
マードック自身、あるいは、跡を継いだマードック・ジュニアによって、まだまだ、日本進出の第二幕、第三幕もあるかもしれない。
マードックはこう言ったそうだ。
「強い企業を築くことはできない、いちいち会議や役員会にはかっているようでは。経営者が自分自身で決定できるようにしなくてはならない」(You can't build a strong corporation with a lot of committees and a board that has to be consulted every turn.
You have to be able to make decisions on your own.)
21歳からメディア界頂点を目指して突っ走ってきた、旗幟鮮明な人生で、マードックという人は、まったくたいした人物だと思う。
(2013年3月11日)
著書
『新入社員マナー常識』
メモ、電話、メールの書き方から、社内恋愛、退職の手順まで、新入社員の常識を、具体的な事例エピソードを交えて解説。
『コミュニティー 世界の共同生活体』
ドキュメント。ツイン・オークス、ガナスなど、世界各国にある共同生活体「コミュニティー」を具体的に説明、紹介。
『1月生まれについて』
三島由紀夫、ビートたけしなど、1月に誕生した31人の人物評論。ブログの元となったオリジナル原稿版。1月生まれの教科書。
『12月生まれについて』
ゴダール、ディズニー、ハイネなど、12月誕生の31人の人物評論。ブログの元のオリジナル原稿収録。12月生まれの取扱説明書。
『ポエジー劇場 大きな雨』
カラー絵本。ある日、降りはじめた雨は、いつまでもやまずに……。不思議な雨の世界。