6月28日は、思想家ジャン=ジャック・ルソーが生まれた日(1712年)だが、絵本作家、佐野洋子の誕生日でもある。名作『100万回生きたねこ』の作者である。
佐野洋子は、1938年、中国の北京で生まれた。父親は満州鉄道の調査部員で、洋子は7人きょうだいの上から2番目で、長女だった。
洋子は7歳で終戦を迎え、一家は終戦後、日本へ引き揚げてきた。父親は学校教師になり、一家は官舎に住んだ。
洋子が19歳のとき、父親が没した。佐野一家は家もなく、貧乏だったが、亡き父親の友人が、父親の知己をまわって募金し、娘の洋子の学資を作ってくれた。佐野洋子は美術大学に進学した。大学を卒業後、いったんデパートに就職したが、デザイン、イラストの仕事をはじめ、絵本作家としてデビューし、後にエッセイストとしても活躍した。
50代で、詩人の谷川俊太郎と結婚し、6年ほどいっしょにいた後、別れた。
2010年11月、乳がんにより没。72歳だった。
絵本に『おじさんのかさ』『おぼえていろよおおきな木』、エッセイに『ラブ・イズ・ザ・ベスト』『私はそうは思わない』『覚えていない』『シズコさん』などがある。
絵本『100万回生きたねこ』は、ため息の出るような名品で、何度読んだか知れない。その物語もさることながら、佐野洋子の絵に感心した。きれいに見せようとか、うまく描こうとかいう野心をなるたけ排除した、どかんっとページに居すわった絵。最初にまず、強いインパクトがある。なんだこれは、という違和感もあるが、しだいに慣れ、見れば見るほど味わいが出てくる。
こういう絵を見ると、作者がどういう絵をいい絵だと考えているか、その芸術観が察せられる。佐野洋子はエッセイのなかで、こう書いている。
「私は美術学校行って、遠近法なんかもデッサンなんかも習って、構成なんかも理屈をこねたりしたので、きっと生意気になっちゃっていると思う。そして、どっかのおばあさんが描いた、遠近法なんかなくてデッサンなんかも知らなくて、ただ描きたいから描いているのよという絵を見ると、ぎくっとして、胸の中ニコニコしながら、すごく反省してしまい、本当に絵が好きというもとのところにぐいーっと引き戻されて、本当は絵を描くことは嬉しくて楽しくてやめられないものだと思って、オロオロもするのである」(「拙いという美徳」『覚えていない』新潮文庫)
佐野洋子のエッセイの魅力は、率直にほんとうのことを言ってくれるところにある。
「お金ってすごいものだ。これなしでは現代人は一日たりとも生きて行けない。世の中で人が自分のものでありながら明らさまに口にしないのが自分の貯金額で、もう一つは自分の愛の生活だと思う。ペラペラしゃべる奴がいたら少し変な奴で、絶対に馬鹿にされる。遠まわしに言ったけど『愛の生活』ってセックスライフの事である。つきつめたら、世の中金と愛の生活が二本柱と言っていい」(「『お金』の問題」同前)
この「ほんとうのこと」を軽々と言ってのける大胆さ。
(2025年6月28日)
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