矢沢永吉は、1949年、広島市で生れた。母親が家を捨て、自転車屋をやっていた酒飲みの父親が原爆の後遺症で没したため、彼は祖母に育てられた。彼は極貧の子ども時代をすごした。高齢の祖母は、生活保護を受け、草刈りの日当を市役所からもらいながら永吉を育てたという。
中学のときに、ラジオでザ・ビートルズを聴き、ロックに目覚めた矢沢は、高校を卒業すると、アルバイトで貯めた5万円とギターをもって夜汽車に乗った。そうして横浜で降り、そこで働きながら、バンド活動をはじめた。
23歳の年に、ロックバンド「キャロル」を結成。レコードデビューを果たした。
26歳の年、キャロルを解散し、「I LOVE YOU, OK」でソロデビュー。武道館ライブを含むライブ・ツアーを精力的におこない、29歳のとき、CMソングとなった「時間よ止まれ」をリリース。大ヒットし、
「矢沢、ビッグ、よろしく」
の名ゼリフを吐く大スターとなり、以後絶大な人気を保ちつづけている。
49歳のころ、矢沢はオーストラリアの不動産にからんで、被害額約35億円と言われる詐欺にあった。彼は懸命に働き、この借金を56歳のころまでに完済した。
矢沢だからこそ、これだけ巨額の借り入れられたとも言えるし、矢沢だからこそ返済できたとも言えるけれど、そもそも彼はなんにも悪くないのである。信頼して任せていた人に裏切られ、借金を押し付けられたのである。だから、とんでもない詐欺にあった被害者として、それを世間に訴え同情を集め、裁判を起こす道もあり得たところを、それをせず、寡黙に音楽活動に打ち込んで復活を遂げた。ここに強靱な精神力を感じる。
親戚の会社の借金をかぶり、黙々と返済し続けた「若大将」加山雄三に似ている。
矢沢永吉は、作曲家、歌手であると同時に、しだいに自分の音楽環境を整えて、自分の楽曲の著作権管理、コンサートの制作、興行をこなし、さらに海外ミュージシャンの招聘までを自分でおこなうようになった。もちろん「永ちゃん」というカリスマ的人気をもったアーティストだから可能だったことだけれど、音楽業界では画期的というか、奇跡的なことだった。
矢沢永吉はいろいろとすごいことをなし遂げてきた男だけれど、自分がいちばんすごいと思うのは、この自分のビジネスを自分で把握している点である。自らみこしに乗りながら、自分の運命を自分でちゃんと握った男、それが「矢沢」である。
(2015年9月14日)
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