ミッキー・スピレインは、1918年、米国ニューヨーク市で生まれ、すぐとなりのニュージャージー州で育った。アイルランド系のバーテンダーをする父親と、スコットランド系の母親とのあいだに生まれた一人っ子だった。
高校時代から小説を書いていたスピレインは、カンザス州の大学に入ったが、すぐにやめ、遊泳監視員やサーカスのトランポリン乗りなど、いろいろな職業を転々とした後、22歳のころ、コミックの原作者となった。彼は当時、毎日8ページの新作ストーリーを書き上げていた。彼が書いたストーリーは、スーパーマン、バットマン、キャプテン・アメリカなどにも用いられたという。
日本との太平洋戦争がはじまると、23歳のスピレインは陸軍航空隊に入隊。戦闘機のパイロットとなり、後、ミシシッピー州に配属され、飛行操縦の訓練教官になった。
終戦の年に結婚したスピレインは、ニューヨーク州のニューバーグに家を購入するために、小説を書いて売ることを決意。19日間で、私立探偵マイク・ハマーが登場する最初の長編『裁くのは俺だ』で書き上げ、出版社に送った。原稿は採用され、このハードボイルド探偵小説は1947年にハードカバー、翌1948年にはペーパーバックが発売された。
大胆な暴力シーンと性描写、サディズムが強調された、それまでのハードボイルド探偵小説の常識を破る新しいミステリーの登場だった。スピレインが描く探偵ハマーは、激情的な人間で、犯人に強い憎しみを抱き、かっとなると見境なく暴力をふるい、すぐに女に惚れて恋仲になる。さらに、推理するだけでなく、自分の手で犯人を処刑してしまう。有識者、批評家たちは悲鳴を上げ、ごうごうたる非難を浴びせた。ところが、一般読者には大歓迎され、米国内だけで650万部が売れるという大ベストセラーになった。
スピレインは『俺の拳銃はすばやい』『大いなる殺人』『寂しい夜の出来事』『復讐は俺の手に』など続編を書き、「マイク・ハマー」シリーズはすべてベストセラーとなった。
1960年代には、出版史上でもっともよく売れた小説ベストテンのうち、7作品までがスピレインの「マイク・ハマー」ものだったという驚異的な記録を残し、彼の後に続くたくさんの模倣者作家を生んだ。
批評家から非難を浴びたことについて、彼はこう言っている。
「大物作家たちは、キャビアより塩のかかったピーナッツのほうが多く消費されているという事実をよく考えなかったのさ。もしも一般読者が好きだというのなら、それはよいものなんだ」(Those big-shot writers could never dig the fact that there are more salted peanuts consumed than caviar... If the public likes you, you're good.)
エホバの証人の信者だったスピレインは、映画やテレビに出演し、話題をまいた後、2006年7月、サウス・カロライナ州の自宅で、すい臓ガンのため没した。88歳だった。
自分は「マイク・ハマー」シリーズは全部読んだ。いちばんのおすすめは、やはり第一作『裁くのは俺だ』である。冒頭の殺人現場に漂う強烈なサディズムといい、テンポの早い展開といい、エロティックでドラマティックなラストシーンといい、秀逸だった。「ダイ・ハード」など、後のハリウッド映画の原点という感じがする。
(2015年3月9日)
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