おそらく世界でもっとも有名な裸婦像「グランド・オダリスク」を描いた画家である。
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングルは、1780年、フランス南西部のムースティエで生まれた。父親は装飾職人だった。
ジャンは12歳でトゥールーズのアカデミーに入学し、19歳のとき、パリに出て、ジャック=ルイ・ダヴィッドの弟子になった。ダヴィッドは新古典派の巨匠で、ルーブル美術館に飾られたあの巨大な絵画「皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式」の作者である。
アングルは21歳で留学用の奨学金がもらえる国のコンテスト「ローマ賞」を絵画で受賞し、26歳から44歳までイタリアのローマやフィレンツェですごした。イタリア時代には、28歳で「浴女」、34歳で名画「グランド・オダリスク」を描き、彼はイタリアにいながら、フランスのサロンへも作品を出品した。
44歳でフランスへもどり、アカデミー会員となり、巨匠として創作活動を続けた。
1867年1月、肺炎のため、パリで没した。86歳だった。
アングルの「グランド・オダリスク」は、自分は小学校のころから、カレンダーやポスターでよく目にしていた。近所の駄菓子屋にもこの絵のカレンダーが貼ってあった。アングルの名を知らなくても、この絵は知っているという人は多いと思う。
おそらくトルコのハレムの寝室で、ベッドの上に女が全裸で横たわっている絵である。ターバンを巻いた女が頭を向かって左に、足を右にして横たわっている。女はからだの左側を下にし、こちらに背中を見せながら、振り向いて横顔を見せている。クッションの上、女の背中は長く、下側になった左足のふくらはぎが交差して右ひざの上に組まれている。
とても印象的な構図で、写真のようにきれいな絵だけれど、この絵の女性が現実にはおよそあり得ない肉体の持ち主だということを、大人になるまで自分は知らなかった。
ご存じの方もいるかもしれないけれど、まず、女の背中が長すぎる。絵の女性は背骨の数が二本か三本多いと言われているそうだ。それから、現実の人体は、構造上、彼女のように足を組むことができない。
だから「グランド・オダリスク」は、写実的な絵のようでいて、その実、あり得ない人体を描いた超現実的な、20世紀を先取りした絵画作品なのである。アングルは、現実世界で見たものをそのまま描かず、自分が美しいと思うように変形し、再構成してキャンバスに定着した。でも、自分のようなうかつ者は、その再構成の妙に気がつかないのである。
アングルは、当時の新発明だった写真を、絵画制作の際に使っていたらしい。でも、写真は画家の生活をおびやかす悪い発明だとして、政府に禁止するよう訴えたそうだ。この辺も興味深く感じる。
(2014年8月29日)
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