歌人の俵万智が、歌集『サラダ記念日』のなかで、こう歌った。
「この味がいいねと君が言ったから 七月六日はサラダ記念日」(『サラダ記念日』河出書房新社)
これによって、この日はサラダ記念日となった。
『サラダ記念日』が世に出たのが、1987年。
そして、ユーミン(松任谷由実)が「ANNIVERSARY」を歌ったのが、1989年。
以来、日本では純愛ブームとあいまって「○○記念日」と恋人や家族のあいだでマイ記念日を作る人たちが急激に増えた。
『サラダ記念日』という歌集が出て間もない、まだそれほど話題になっていないころ、自分はたまたまこの歌集の存在を知っていた。友人に俳句をやるのがいて、ある日、彼が、
「いやあ、すごい歌人を見つけたよ」
と興奮ぎみで、買ってきた『サラダ記念日』を見せてくれたのだった。
いくつか読んでみて、自分は声をあげた。
「ほんとだ。これは、すごい」
短歌というと、自分の頭は与謝野晶子のあたりで時間が止まっていたのだけれど、現代には、こんな風に日常のしゃべりことばで、しかもことばの美しさをくずさないで歌っているみごとな短歌があるのだと、はじめて知らされた。日本語って、まだまだ可能性があったのだ、と。
「吾をさらいエンジンかけた八月の朝をあなたは覚えているか」(同前)
「同じもの見つめていしに吾と君の何かが終ってゆく昼下がり」(同前)
こうした短歌によって、作者の俵万智は角川短歌賞を受賞した。この本は280万部の大ベストセラーになり、高校教師だった俵万智は一気に有名人、人気作家となった。
ちなみに、俵万智が角川短歌賞を受賞したこのとき、次点で、惜しくも賞を逃したのが穂村弘で、こちらもすごい歌のオンパレード人で、自分は脱帽した。
「酔ってるの? あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」
「猫なげるぐらいが何よ本気出して怒りゃハミガキしぼりきるわよ」
「海にでも沈めなさいよそんなもの魚がお家にすればいいのよ」(いずれも『シンジケート』沖積舎)
こうしてみると、バブル経済と言われた好況期は、文化の爛熟期で、新しい日本語の達成があちこちでなされていた時期なのかもしれないと、いま振り返って思う。
自分でも、すてきな歌が歌えたらと思う今日はサラダ記念日。
(2014年7月6日)
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