1月4日は、官公庁御用始めの日(土日に重なると月曜日に順延されるけれど)。この日は、点字を開発したフランス人、ルイ・ブライユが生まれた日(1809年)だが、異端の幻想作家、夢野 久作の誕生日でもある。
学生時代の友人に、夢野久作を愛読している友人がいて、彼のおかげで自分は夢野久作を知った。自分は夢野作品をすこし読んだ。「異才」と呼ぶべき、なんとも不思議な作家だと思う。
夢野久作は、1889年(明治22年)に、福岡で生まれた。出生時の名は、杉山直樹。父親は右翼系政治団体「玄洋社」の創成期を担い、中央の政界や軍部にも顔のきいた大物、杉山茂丸だった。
子供のころ、祖父から四書五経など中国古典をたたきこまれたという直樹は、上京して慶応大学に入学。大学在学中に陸軍の将校教育を受け、陸軍少尉の位を得た。
24歳のとき、大学を中退し、故郷福岡で農園をはじめたが、うまくいかず、上京して寺の修行僧になったり、九州にもどって新聞社の記者をしたりした後、30歳前後にルポタージュや童話を書きはじめた。
37歳のとき、雑誌の懸賞小説に『あやかしの鼓』が入選し、小説家としてデビュー。「夢野久作」というペンネームは、父親が彼の作品を読み、
「夢の久作の書いたごたる」
と感想を漏らしたところからという。
『押絵の奇蹟』『ドグラ・マグラ』などを書いた後、1936年3月、脳溢血のため没した。47歳だった。
長編『ドグラ・マグラ』は、狂人が書いた推理小説という奇抜な設定で、日本三大奇書のひとつに数えられて名高い。
その昔、友人に聞いたうろ覚えの又聞き話だけれど、『ドグラ・マグラ』は発表当時、推理小説界の大御所、江戸川乱歩に酷評されたそうだ。でも、後に乱歩は、
「あのとき、自分は頭がどうかしていた」
と、評価を180度変えたらしい。
自分が中学生だったときの数学教師が、なるとき、授業中に、どういう脈絡でだったか、こんなことを言った。
「宇宙空間はねじれているという学説があって、それによると、たとえば、どこまでも見える望遠鏡で、なにもない宇宙空間をのぞくと、自分の後頭部が見える」
自分は、おもしろい話だなぁ、と感心して聞いた。
それから後、大学生になった自分は、友人の下宿で夢野久作の『猟奇歌』を見せてもらっていて、そのなかにこういう歌があるのを知り、驚いた。
「無限に利く望遠鏡を
覗いてみた
自分の背中に蠅が止まつてゐた」(夢野久作『猟奇歌』青空文庫)
中学のときの先生が言っていたのと同じ趣向だ、と思った。
あの数学の先生が、猟奇歌を読んでいたかどうか、たしかめたいけれど、自分が学生のころすでに鬼籍に入られていて、たしかめようがないのは、そういう望遠鏡を持っていないのと並んでとても残念である。
(2014年1月4日)
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