8月5日は、ノルウェーの天才数学者、アーベルが生まれた日(1802年)だが、仏国の作家、モーパッサンの誕生日でもある。
自分の父母は忙しく、ふだん子どもの相手をしなかったが、母親が自分たちに一度だけ、本を読んでくれたことがある。それは外国のある貧しい夫婦が、日ごろは縁のないパーティーに招かれたという比較的短いお話だった。日ごろから華美な社交界に憧れていた奥さんは大喜び、着ていくドレスを用意したが、胸元がどうもさびしい。そこで、お金持ちの友人ダイヤのネックレスを借りてきた。そして、パーティーから帰ってきてみると、借り物ののネックレスがなくなっている。さて、どうしよう。というような話で、子ども心にとてもおもしろく聞いた。自分は高校生になってから、そのお話が、フランスの作家、モーパッサンの小説『首飾り』だったと知った。
ギ・ド・モーパッサン(アンリ・ルネ・アルベール・ギ・ド・モーパッサン)は、1850年、仏国のノルマンディー地方で生まれた。裕福な家庭だったが、父親は女性関係が派手で、ギが12歳のころ、母親は子どもを連れて家を出、父親と別居し、エトルタの別荘で暮らすようになった。
やがてプロシアとフランスの普仏戦争がはじまり、学生だったモーパッサンは召集されて戦闘に参加した。彼は無事エトルタへ帰ってきたが、戦場で目にしたさまざまなできごとをきっかけにして、彼の人間不信がはじまったと言われている。
22歳のとき、モーパッサンはパリに出て、海軍省の役人になった。母親の友人だった作家のフローベールに師事し、小説を見てもらうようになり、フローベールの紹介で、エミール・ゾラとも親交をもつようになった。
25歳のころから短編小説を発表しだしたモーパッサンは、30歳のとき、『脂肪の塊』を発表。以後、『女の一生』『ベラミ』など長編を数編と、二百とも三百とも言われる多数の短編を書いた。
モーパッサンは、神経を病んでいて、神経衰弱や頭痛、不眠に悩み、麻薬を用いだし、自殺未遂を起こし、精神病院に収容された。そして、そのまま病院で、1893年7月に没した。42歳だった。
「文学の王国」フランスには、スタンダール、ユゴー、バルザック、ロマン・ロラン、プルーストなどなど、世界文学の高峰がいくつもそびえているが、フランス文学の短編の名手となると、やはりメリメと、このモーパッサンということになるだろう。
自分は、モーパッサンの短編を、『脂肪の塊』を含め、二、三十編くらい読んでいると思う。『首飾り』は、数あるモーパッサンの名作のなかでも、とても有名な作品らしいと知ったのは、ごく最近になってからだった。気のきいた筋の運びと、どんでん返しのある、皮肉な味わいの好短編である。
ただし、後をひく、深みのある読後感が残るという意味では、たとえば、同じ貴金属を扱った短編でも、『宝石』のほうが、ずっと文学作品らしく、すぐれている気がする。どちらもみごとな短編小説なので、まだ読んでいない方は、読み比べ、おすすめです。
モーパッサンの経歴には、戦争の後遺症が歴然とあらわれている気がする。たった十数年の活躍で、不滅の輝きを放ちつづける作品群を残した天才作家であり、その生涯が短かったのが惜しまれる。
(2013年8月5日)
●おすすめの電子書籍!
『8月生まれについて』(ぱぴろう)
モーパッサン、ゲーテ、アポリネール、ブローデル、バーンスタイン、マドンナ、ヘルタ・ミュラー、シャネル、モンテッソーリ、マイケル・ジャクソン、井上陽水、宮本常一、中坊公平、北原怜子、宮沢賢治、など8月誕生31人の人物論。8月生まれの人生とは? ブログの元になった、より深く詳しいオリジナル原稿版。
www.papirow.com