6/28・佐野洋子の率直 | papirow(ぱぴろう)のブログ

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6月28日は、仏国の思想家、ルソーが生まれた日(1712年)だが、絵本作家、佐野洋子(敬称略)の誕生日でもある。名作絵本『100万回生きたねこ』の作者である。
自分は近年になるまで、佐野洋子をよく知らなかった。あるとき、ラジオを聴いていたら、本の話をしていた女性DJが、唐突にこう言った。
「エッセイといえば、佐野洋子さんですよね。ここまで書くか、と。とにかく、すごい」
それで、自分はあわてて佐野洋子のエッセイを集めて読み出した。それから彼女の本業である絵本も何冊か読んだ。だから、自分は「エッセイスト佐野洋子」から入ったファンである。読んでみると、DJの言う通りだった。すごい。

佐野洋子は、1938年、中国の北京で生まれた。父親は満州鉄道の調査部員で、洋子は7人きょうだいの上から2番目で、長女だった。
洋子は7歳で終戦を迎え、一家は終戦後、日本へ引き揚げてきた。
佐野洋子は美術大学に進学。大学を卒業後、デパート勤務をへて、デザイン、イラストの仕事をはじめ、絵本作家としてデビューし、後にエッセイストとしても活躍した。
2010年11月、乳がんにより没。72歳だった。
絵本に『おじさんのかさ』『おぼえていろよおおきな木』、エッセイに『ラブ・イズ・ザ・ベスト』『私はそうは思わない』『覚えていない』『シズコさん』などがある。

絵本『100万回生きたねこ』は、ため息の出るような名品で、何度読んだか知れない。その物語もさることながら、自分は佐野洋子の絵に感心した。きれいに見せようとか、うまく描こうとかいう野心をなるたけ排除した、どかんっとページに居すわった絵。最初にまず、強いインパクトがある。なんだこれは、という違和感もあるが、しだいに慣れ、見れば見るほど味わいが出てくる。

佐野洋子のエッセイの魅力は、率直にほんとうのことを言ってくれるところにあると思う。たとえば、こういう文章のように。
「お金ってすごいものだ。これなしでは現代人は一日たりとも生きて行けない。世の中で人が自分のものでありながら明らさまに口にしないのが自分の貯金額で、もう一つは自分の愛の生活だと思う。ペラペラしゃべる奴がいたら少し変な奴で、絶対に馬鹿にされる。遠まわしに言ったけど『愛の生活』ってセックスライフの事である。つきつめたら、世の中金と愛の生活が二本柱と言っていい」(「『お金』の問題」同前)
この大胆さ。精神が健康で、人間が大きい者のみがなせる業である。

佐野洋子は、異なる世代に寛容で、未来に関する見通しも、とても楽観的で楽しい。
「私は心配しない。たとえパンティーを小父さんに五千円で売る少女が居ても、受験以外のことにまるで白痴のような少年が居ても。若い人達はしたたかに生きてこの世を作っていく。私達がなしてきたのとは全く別の感受性を持って新しい世界を作っていく。どんな世の中になろうとそれが世界なのである」(「過去の子供、未来の子供」同前)
未来を思い描くと、どうしても悲観的なものになりやすい。それは現代に不安の種がたくさん見つかるからでもあるが、もうひとつには、悲観的な未来のほうが想像しやすいから、楽だから、でもある。
佐野洋子のような、図太い、たくましい想像力を持ちたいものだと思う。
(2013年6月28日)



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