ある日、都心の街を歩いていると美術館で見覚えのある名前の人物の展覧会が大々的に開催されていました。


私にとっては最も忌まわしい思い出したくもない名前だったので、それを見た途端に固まり、美術館の前で立ち止まってしまいました。


「こんな大層な所で展覧会をしているのか…」

メラメラと怒りがこみ上げてきました。


少し重たい話になって恐縮なのですが…


その人物は、高校生の時の美術部の顧問で、私はその人物から大変ないじめに遭い、それは今でも深い心の傷になっていたのです。


顧問の教師は、とても自分勝手でワンマンだったので、私たち美術部員はいつも振り回されて困り果てていました。


皆がどうしたものかと悩んでいたので、私は「ちゃんと伝えて話し合った方がいいよ。」と、言いましたが誰も賛成する人はなく、結局私1人で教師に話に行くことにしました。


私もその頃は、とても若かったので「問題を解決するには、腹を割って話し合えば何とかなる」と思っていたので、そういう行動に出たのですが、話は全く通じず、失敗に終わり結果は散々でした。


そして、私は「教師に対等にモノを言う生意気な学生」と見られ、それからは教師によるひどい嫌がらせが始まりました。


まず、全然身に覚えのない悪い噂を友人や後輩生徒たちに撒き散らし、私が学校で孤立するように仕向けられました。


サイコパスなので、ウソが非常に上手く、教師が塗り固めたウソの世界の前になす術もなく、私には次々とひどいレッテルが貼られて行きました(プーチンさんみたい爆笑あせる)。


クラスでも評判になるほどよく描けた作品であったにも関わらず、作品を提出してない友達よりも美術の点数が低かったということもありました。


「このままではpapiponがあまりにも可哀想だ!」と、美術部員たちが教師に直談判をしに行こうという話になったそうなのですが、一人が「でも、美大推薦がもらえなくなる」と、一言呟いたためにその話は立ち消えとなったのだそうです。


そして、夏休み返上で一生懸命に書いた油絵も「出してもムダな駄作。入選するわけがない。」と、いう理由で、展覧会に出すことを教師に禁じられ、皆の作品が次々にトラックに搬入される中、1人だけ美術室に残され置き去りにされました。


あまりに悔しくて、団体ではなく、個人で出品しようと決意し、80号のキャンバスを担いで上野まで出掛けて行くことにしました。


駅で親友が1人待っていてくれて「一緒に行くよ」と、ついて来てくれたのは、本当に嬉しかったです。


道中、でっかい荷物を抱えて山手線に乗ったにも関わらず、周りの方々が温かく見守ってくださったのも本当にありがたかったです悲しい


色んな人が、話しかけてくださいました。


階段を一緒に持ってくださった方もいました。


画家になりたかったというサラリーマンのおじさんが色んな話をしてくださったのは今でもいい思い出です。


上野の東京都美術館で搬入を済ませ、友人と二人で清々しく上野の森を歩いたのは本当に気持ち良かったです。


全国学生展覧会の結果は見事「入選」。


友人と飛び上がって喜びました。


美術教師が、学生たちの作品を見るために、大勢の美術部員をゾロゾロと引き連れ、上野の学生展覧会にやってきた時、私の作品がド正面に飾られているのを発見して皆驚愕したそうです。


生徒たちがざわつく中、美術教師は顔を真っ赤にしてうち震えていたといいます。


友人たちがその時の様子をモノマネを交えながら笑い転げて何回も私に教えてくれました。


本当にスッキリしました。


そして、退部届けを出し、思い出深い美術部と縁を切ったのです。


そんなわけだったので、その教師が、都心の大きな美術館で展覧会をやっていたのを偶然発見して、すっかり忘れていた忌まわしい過去を思い出し、体が硬直してしまったのです。


とにかく入って見てみようよ、と、一緒にいた友人が誘うので仕方なく乗り込むと、なんと本人が美術館の中にいるではありませんか!


体がガクガクと震えてしまいました。


「私、本人かどうか聞いてみるよ。」と、怖いもの知らずの友人は、止める間もなくあっという間に小鹿のようにその人物の所へ駆け出して行きます。


すると、なんとその人物を連れてこちらに向かって来たのです!


(キャー!なんで連れて来るのよムキー)と、怒りに燃えて友人を睨むと、友人は意外な一言を発しました…


「違う人らしいよ。」


「えっ…驚き


聞けば、美術教師とは従兄弟同士の関係で、名前が同じで、外見も似てるので、よく間違われて非常に迷惑してる、との話でした。


そういえば、美術教師が「ニューヨークに有名な画家の従兄弟がいる」と、自慢していたのを思い出しました。


その方は、とてもいい方で、一緒にお茶をしようということになりました。


私が高校生の時に美術教師から受けた数々のいじめのことについて話をすると、神妙な顔つきで熱心に聞いてくださり、「本当に申し訳ないことをしました。」と、深く頭を下げて謝ってくださいました。


その方に謝って頂く理由がないので、慌てて恐縮すると、

「あいつは本当に性格が悪くて私も大嫌いなんです。同じ美術家としても本当に恥ずかしい。」と、何とも言えない顔で話されました。


聞けば、最近、校内の女子学生にセクハラ行為をして懲戒免職になり、学校を辞めさせられたのだそうです。


意外な現況に驚いていると、

「あなたもあんなやつのことはサッサと忘れて、楽しくご自分の人生を歩んでください。」

と、優しく言われました。


何だかとてもスッキリしました。


お会い出来たことに感謝して、丁重にお礼を言って別れました。


その方は、ほどなくしてニューヨークのご自宅で亡くなられたと聞き驚きましたが、最期の貴重なお言葉を頂いたようで、更に感謝が深まりました。


振り返って冷静に考えると、なんか楽しい思い出だったかも…と、クスクスして前向きな気持ちになりました。


ここに書かせて頂くことで、悪い記憶を手放せたような気がします。


ありがとうございましたニコニコ