もう、ずいぶん昔の話になります。

3匹目に飼っていた雑種犬を散歩させていたときに突然見知らぬお婆さんに声を掛けられました。

「こういう幸せなワンちゃんを見ると嬉しくなっちゃって話しかけちゃうのよ」

聞けば世の中には可哀想な飼い方をされている犬が多く、お婆さんはそういう犬を見かける度に心を痛めているそうなんです。

「でもね、小さくて弱い動物には神様が特別に目を掛けているような気がするの。
この前も怖いことがあってね…」
とこんな話をしてくれました。

その犬は家の外で飼われていましたが、鎖で首を繋がれていて夏の暑い日も炎天下に置かれ、冬の寒い日も毛布もなく冷たいトタンの小屋に入り、エサもろくに貰えず、散歩にも連れて行ってもらえてなかったそうです。

奥さんは、家で高級なネコを飼っていてとても可愛がっていましたが、その犬には見向きもしませんでした。

すると、しばらくしてその犬が亡くなると、その犬を繋いでいた木が枯れ、飼っていたネコも死に、ご主人も突然死したそうです。

お婆さんはペットを虐待する人の家は、その後大抵不幸せな事が起こると言っていました。

「そういえば…」
私の隣の家にも「可哀想な犬」と呼んでいた犬がいました。

なぜ、「可哀想な犬」と呼んでいたかというと名前がなかったからそう呼ぶしかなかったのです。

いつも首輪を鎖できつく縛られ暑い日も寒い冬も辛そうな環境に置かれ、散歩もしてもらえませんでした。

いつもトイレの小窓から犬の様子をみていました。
冬の寒い日は穴を掘って身体を埋め寒さをしのいでいました。
その上に雪が降り積もっていた光景があまりに可哀想で今でも忘れられません。

時々脱走して楽しそうに走り回っている姿を目撃しましたが鬼のような形相をした奥さんにすぐに捕まり連れて行かれました。

しばらくしてこの犬も力尽きて亡くなりました。

今でも思い出す度に、ただ見ていただけの自分を責めて辛くなります。

でも、この犬が亡くなった後、やはり繋がれていた木が枯れ、ご主人が心筋梗塞で突然死しました。

小さくて自分ではどうすることもできない動物たちには、やはりお婆さんの言う通り、何か特別な守りがついているのかも…と思って少し怖くなりました。

その時、うちの犬がお婆さんが言うように特別幸せだとは到底思えなかったのですが、大切にしなければと思いました。

お婆さんにはそれっきり会うことはありませんでした。