父の断薬をするときにまず第一の壁は父が
「薬大好き」
ということでした。

強度の依存体質で若い時から常に何かに依存しないではいられない人でした。

若いときは母親に…酷いマザコンで病院の慰安旅行にも母親同伴で行き、病院を去るとき看護師さんたちから贈られた寄せ書きには「いつもママと一緒」と書かれていました。

結婚してからは私の母に依存し、開業してからは酒とタバコに依存しました。

そして、病院経営の重圧によるストレスから毎晩寝る前に睡眠薬を飲むようになり、睡眠薬をつまみにウィスキーを煽るというのが父の晩酌スタイルとなりました。

そしてついに倒れ入院し、それから3年間寝たきりとなった過去があります。
50才頃の話です。

その時の凄まじい禁断症状に懲り懲りして、もう二度と睡眠薬は飲まないと固く誓ったのですが、35年も経っているのだからいくらなんでも薬は抜けているだろうから少し位構わないだろうと飲んでしまったのが運のつきでした。

35年経とうが100年経とうがそんなことは全く関係ないのです。

筋肉の細胞の隅々に潜んでいた薬の亡霊が仲間の侵入によって完全に目覚めてしまったのです。

しかも、以前の睡眠薬よりももっと強力な悪魔「向精神薬」です。 

父の身体の中の亡霊たちはお祭り騒ぎで暴れ出しました。

同時に父親の薬への強依存も目覚めてしまいました。

断薬なんてとんでもない、診察に行く度に医者により強い薬を要求しました。

とても心が弱いので禁断症状に耐えられず、強い禁断症状を抑えるために更に強い薬を飲みたがったのです。

確かに端で見ていていても禁断症状は辛そうでした。

身体の手足は痺れひきつれ、皮膚は全身感覚がなく、頭は孫悟空の輪で締め付けられているようで、口の中は蝋(ろう)のようで、まさに身体中で悪魔が暴れているような感じでした。

前回の禁断症状では抜けるのに30年もかかりました。

90才近い父にはもうそんな時間はありません。

死ぬまで禁断症状に苦しむことになります。

こんな状態で果して断薬は成功するのか、悪魔たちに勝てるのか…苦悩が続きました。