退院してからの父はとても嬉しそうでした。

「お父さん、よかったね」
と言うと父はとても幸せそうな顔をしてベッドに横たわりながら、
「よかった」
と呟きました。

但し現実は厳しいです。

父が可哀想だということと、このままほおっておいたら病院に廃人にさせられてしまうという一念だけで必死に退院させましたが、自宅に帰れば誰も助けてはくれません。
頼りの熱田さんもいません。

食事の世話も、下の世話も、お風呂もすべて家族でやらなねばならないのです。
しかも、何かをする度に父は暴言を吐き抵抗するので一つ一つの作業が倍時間がかかりとても厄介でした。

この頃、家族と「赤ちゃんなら抵抗しないから楽だよね。暴言吐かないし。」といつも話をしていました。

ただ、友人のタロット占いの
「1年間濃厚に関わる」
ということばが呪文のように頭を巡り私の支えとなっていました。

この言葉を聞く前は、いつもどこか逃げ腰で、隙あらば手を抜こうとし、何をやるにも「あーやだ、あーやだ」と心の中で呟き、父親を見るのも嫌で直視できないほどでした。

しかし、友人から、
「濃厚に関わることが大切」
と言われ、腹を括りました。

「何十年という訳ではない。1年間じゃない。やってやろうじゃないの。但し1年間。それ以上は絶対に出来ない。」
と毎日心の中で繰り返し呟きました。