結局、退職することになり、父の私物整理のために一人で病院に向かいました。

誰もいない診察室に父の使い込まれた聴診器と白衣が置いてあります。

カルテを書くボールペンもありました。

パソコンは使えない父はカルテはすべて手書きです。

何万枚書いたか分かりません。

1枚1枚力一杯必死で書くので指が変形して横に曲がっています。

自閉症アスペルガーなので力加減ができず、何をするにも不器用で人の何倍も努力と苦労を要します。

1度決めたレールを降りるのも嫌うため退職を納得させるのも大変でした。

人の意見は全く聞きません。

こうと決めたら人の迷惑などお構いなしに台風だろうが大雪だろうがどんな状況でも実行します。

最後は私が大声で怒鳴って叱って、やっとのことで納得させました。

荷物を片付けてる間、私が来てることが分かっているのに院内の方はどなたも来ませんでした。

院長も来ません。

「いらっしゃらないのかな?」
と思っていると、
「終わりましたか?」
と看護師さんが入ってきました。

どうやら私が終わらないと帰れないようで少しイライラしているようでした。

すると隣の部屋から、
「○○も持ってくように言って!」
と看護師さんに指示する院長の大声が聞こえてきます。

(隣にいたんだ…)とビックリしながらも、(ならちょっと顔出して挨拶しても良さそうなものを…)
と戸惑ってると院長の指示を受けた看護師さんが、
「これも持ってってください。」
と父の残りの私物を詰めた段ボールを私に突きつけてきました。

急な退職で迷惑を掛けたとはいえ、父は何十年間も病院のために身を粉にして働いてきたのに、まるでボロ雑巾のように捨てられて、あまりに悲しい退職の日でした。