私は母に対して、何度か疑問を抱いた。この人は本当に私の母なのか、この人から私の様な人間が産まれるだろうか。親子にしては、似ている所があまり無い。顔も、好みの物も。
けど、親子なのだ。余りにも似ている所があるから。
ある日、死んだ飼い犬は、虹の橋で飼い主を待っていて、飼い主が死んだ時に一緒に天国へ行くという話を聞いた。
母にその話をした。母は嬉しそうにそれを聞いていた。私は母は絶対に地獄へ行くから、百年か千年か、犬は待つことになるだろうなと考えていた。私に数々の酷い仕打ち、姉に対する罵詈雑言、父には陰口。そのすねには傷が一つや二つじゃ済まない。人に後ろ指を指される人生を歩みつつ自らも他人に指を指して生きてきた人だ。天国になぞ行ける訳が無い。そんなことを考えながら嬉しそうにしている母を見ていた。
母は私の顔を見ると、笑顔でこう言い放った。
「あんたは地獄行きだから、犬を待たせることになるよ」
なるほど、この人は間違いなく私の母だ。