夏の終わり、私は暇を持て余していた。
現代の時間泥棒、暇を餌になんの役にも立たない娯楽を提供するインターネットも、私の退屈を吹き消すまでには至らなかった。
私は留守番をしており、家族は皆出かけていた。家を空ける訳にもいかないので、窓辺に座り虫の声を聞いていた。
グラスの中の飲料を、一口、また一口と飲みながら、私は退屈を浮き輪にしインターネットを漂流していた。
ふと、とある同級生のことを思い出した。同じ学校に通っていたころは良く遊んでいたが、その時はもう連絡を取っていなかった。
確か、電話番号があったはず。携帯の電話帳を探すと、あった。この番号だ。私は二、三分ほど迷ったが、思い切って電話をかけてみることにした。第一声も話題も何も考えていなかったが、とにかく彼と話してみたくなったのだ。
しかし、返ってきたのはもしもしではなく、電話番号が使われていないことを伝える旨の、無機質な音声だった。私はどこか虚しさを感じ、不貞寝をした。
秋も半ばに差し掛かるころ、私は帰り道に再び彼のことを思い出した。ちょうど彼の家の近くを通るところだったので、行ってみることにした。
しかし、探せど探せどその家は見つからない。生まれつきの方向音痴が災いしたか、あるいは景色が変わってしまったか、私は完全に迷ってしまった。
しばらくその周辺をうろうろしていると、見覚えのある場所についた。そこには工事中のバリケードが作られ、その向こうには瓦礫が積み重なっていた。そこには彼の家があるはずだった。
ふと横を見ると、野良猫がいた。その猫にも見覚えがあった。確か彼が隠れて餌をあげていた猫だ。その猫は瓦礫を見ているようだった。
私は彼のことを、薄情な人間だと思った。私に何も言わずいなくなり、可愛がっていた猫まで置いていくとは。しかし、私も連絡を取っていなかったことを思い出し、薄情なのは自分の方か、と思った。
私は呆れた。さよならは言えなかったのではなく、言わなかったのだ。きっと彼は、私のことなど忘れているだろう。
空き地に背を向けて帰ろうとしたとき、猫がこちらを見ていた。会釈程度に頭を下げると、猫はどこかに行ってしまった。