未だ暑く夏の気配が残る季節、高校生だった私は文庫本と缶コーラを持ち階段下の物置を占領していた。人の目が届かず、パイプ椅子とテーブル代わりの段ボールがあるそこは、世間と現実から逃げるにはピッタリの場所だった。
周りはもう受験戦争に向けて作戦を開始し、試験は団体戦という言葉に従い肩を並べ勉強していた。しかしその中には誰かを蹴落としてでも合格したいという者、むしろ誰かを蹴落とすことを目的としてる者もいた。面は笑っているが、腹の中に飼われた獣を私は見逃さなかった。私は辟易し、その輪に加わることを拒んだのだ。輪に加わらない者に向けられる目は白黒冷ややかに入り混じり、いつしか私は完全に孤立した。
その日も勉強もせず、部活にも参加せず、遠くから聞こえてくる後輩の演奏を聞き流しながら、読書に耽っていた。1分が永遠に感じられる夕方、微睡むように私は世間から逃げ出した。
「いつもそこにいますよね。」後ろから急に声をかけられ、振り返ると後輩が笑っていた。はっとして目線を逸らし一、二秒後、私は「うるさい」と突き返した。後輩はまた笑い「怒られても知りませんよ。」と言い、どこかへ消えた。
それからその後輩に会うことはなかった。きっと私と同じ、社会から逃げ出した一人だったのだろう。
私は卒業後、あの物置を訪れた。誰かがそこに来た形跡は無かった。けれど、また誰かが流れ着くだろう、そう思いその人への贈り物として、そこで読んでいた本を置いていった。あの日ここに来た、あの人の顔を思い出していた。
周りはもう受験戦争に向けて作戦を開始し、試験は団体戦という言葉に従い肩を並べ勉強していた。しかしその中には誰かを蹴落としてでも合格したいという者、むしろ誰かを蹴落とすことを目的としてる者もいた。面は笑っているが、腹の中に飼われた獣を私は見逃さなかった。私は辟易し、その輪に加わることを拒んだのだ。輪に加わらない者に向けられる目は白黒冷ややかに入り混じり、いつしか私は完全に孤立した。
その日も勉強もせず、部活にも参加せず、遠くから聞こえてくる後輩の演奏を聞き流しながら、読書に耽っていた。1分が永遠に感じられる夕方、微睡むように私は世間から逃げ出した。
「いつもそこにいますよね。」後ろから急に声をかけられ、振り返ると後輩が笑っていた。はっとして目線を逸らし一、二秒後、私は「うるさい」と突き返した。後輩はまた笑い「怒られても知りませんよ。」と言い、どこかへ消えた。
それからその後輩に会うことはなかった。きっと私と同じ、社会から逃げ出した一人だったのだろう。
私は卒業後、あの物置を訪れた。誰かがそこに来た形跡は無かった。けれど、また誰かが流れ着くだろう、そう思いその人への贈り物として、そこで読んでいた本を置いていった。あの日ここに来た、あの人の顔を思い出していた。