プロ13年目での突然の大ブレイクは、以前発売された「キドコロ待機中」Tシャツにちなみ、「キドコロ必死中」「キドコロ活躍中」などと、大いに話題となった。
シーズン前に、ここまでの大ブレイクを予期した人はいなかっただろう。
何しろ、昨年までのプロ12年間で、48本のヒットしか積み重ねていないのだから。
実は、筆者は、城所の高校時代のプレーを2度見たことがある。
その時の衝撃的な印象からすると、ようやくプロの世界で結果を出してくれたかと、長く待たされた分、感慨深いものがあった。
◾︎スター軍団の記憶
高校2年の夏の県予選に、1番ライトでスタメンに名を連ねていた城所。
ピッチャーには、後に日本ハムに入団し、新人王を獲得した2年生エースの榊原諒。
サードには、同じく2年生ながら中軸を打ち、松田宣浩二世と呼ばれ、後に中日のドラフト1位で入団した中川裕貴。
彼らが2年の夏と3年の春に甲子園出場を果たし、また秋春の東海大会を制し、明治神宮大会では、成瀬擁する横浜や、ダルビッシュ擁する東北を破り、優勝を遂げるような、正真正銘のスター軍団であった。
そのスター軍団の試合を見に行った筆者だが、残念なことに、その試合の記憶は全く無い。
ただ覚えているのは、試合前のノックの城所のプレーがあまりにも衝撃的であったことだ。
◾︎本気の剛球
ノッカーから放たれた打球を、どこか手を抜いたような余裕のある動きでキャッチすると、ライトからセカンドへ、そしてサードへ、低く物凄い勢いの送球が飛んで行く。
こいつ、狙ってるな。
学生時代、内野手であった筆者は、ノックの時も、自ずと内野手に目が行くのだが、この時ばかりは、この外野手の動きに目を奪われた。
決して大きな体ではないのだが、堂々とした出で立ち。
打球を取りに行く、ゆったりとした動作が、妙に大人びて見え、何とも言い表せないオーラを感じさせる。
ただの目立ちたがり屋か。調子乗りか。
それとも本物か。
最後のバックホーム。
これまでと同じように、決して全力でダッシュすることなく、ゆっくりと前進し、打球をキャッチすると、次の瞬間。
「さあ、本気出すか。」
そんなつぶやきが込められたかのような、力強く、火の出るような、ダイレクト返球。
当時、大リーグに移籍したイチローの、矢のような返球が、「レーザービーム」と呼ばれ始めていたが、まだ高校野球の世界では市民権を得ていない頃。
間違いなく、「レーザービーム」を見た。
いや、そんな上品な感じじゃない。
剛球。
キャッチャーミットがバチンと音を立て、キャッチャーが手を痛がるような激しい剛球。
そして、そんな剛球を投げた後、涼しい顔して引き上げてくる。
繰り返すが、試合の記憶は全く無い。
◾︎埋もれる才能
才能の塊ゆえに、なんとなく天狗になりそうで心配なタイプ。
しかし、周りにはプロ注目の逸材が揃っていたことで、その心配は杞憂に終わり、1年後のドラフトで、ダイエーホークスからドラフト2位指名という高評価を受ける。
一方、チームメイトの中川は、同じく高卒で、地元中日にドラフト1位で指名された。
エースの榊原諒は、社会人・大学を経由し、日本ハムにドラフト2位で入団すると、2年目に10勝を挙げ、新人王に輝いた。
しかし、あの試合、筆者の目に強烈にインパクトを残したのは、中川よりも榊原よりも城所。
あのオーラをまとった姿を見られる日が来るのを楽しみにしていた。
選手層の厚いソフトバンクの中で、代走・守備固めというポジションを確保しても、あの高校時代からすると、全く物足りない。
そうこうしているうちに、内川がFAで加入し、長谷川や中村が台頭し、そして柳田が押しも押されぬ看板選手に成長し、外野の枠は埋まっていった。
◾︎「キドコロ本気中」
さすがにもうダメか。
このまま貴重なバイプレーヤーのまま、引退していくのか。
もう、あの威風堂々とした姿は見れないのか。
と思った頃に、今年の遅すぎるブレイク。
今やもう、あの頃の天狗のような城所龍磨はいない。
まさに「キドコロ必死中」。
日本中の天才野球少年たちが、必死に努力して、もがいて、運を掴んで、ようやく結果を残すことができる。
プロの世界はそんなに甘くない。
城所の歩んできたプロセスを見ると実感する。
この交流戦の勢いで、しばらくはスタメンでの出場も多くなるだろうが、先ほども書いた通り、日本屈指の選手層のソフトバンク外野陣である。
勢いだけで、ポジションを守り続けることはできない。
しかし、今の城所は、才能だけでなく、勢いだけでなく、ガムシャラに、必死に、ひたむきにプレーすることができる。
「さあ、本気出すか。」
あの唸るような剛球バックホームを投げた時のように、本気の城所龍磨がまだまだ見たい。




