ベルイマン監督の神の沈黙三部作より、”沈黙”  感想文その1 | ぞうの みみこのブログ

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これは見ておくべき映画の一つであろうと思い、

イングマール・ベルイマン監督(1918~2007 スウェーデン生まれ)の”沈黙”を見た。(1963年公開)

ほぼ同時期に作成された、”冬の光” ”鏡の中にあるごとく”とあわせて、よく神の沈黙三部作と言われているらしい。すごく難解だという感想も聞いた事がある。

おそろしいくらいに無駄を省いた、とぎすまされた映画だ。英語で言う”AUSTERE"という言葉がここまでぴったりくる作品もないのではないだろうか。

例えば,いわゆる”フィルムスコアリング”なるものはこの作品には存在しない。

サウンドイフェクトとか、よくソースミュージックなどと称される、登場人物が聞いているラジオからながれている音楽などがすべて。

”研ぎすまされた”という印象をもっともわたしに鮮烈に与えたのは何と言ってもシネマトグラフイーだった。日本語で言えばカメラ映像とか、撮影になるのだろうか。

とにかく、どの瞬間を切り取っても美しい。単にきれいとか言う感じでなくて,ネガとポジ、光と影、フォアグラウンドとバックグラウンドなどの構図やバランスが完璧で、息が詰まるような美しさなのだ。

それらの要素がぎりぎりのところで拮抗しており、一ミリでもどこかずれてたら、すべてががらがらと崩壊するのではないか,そんな印象さえあたえる息詰る美しさ。

カメラワークの角度が独特だ。専門家ではないからうまく言えないのだが、ふつうこのシーンだったら、顔を真横から撮ったりするんじゃ、と思えるような場所で、独特の角度、ななめ上方からの角度とから俳優を捉えていたりする。

登場人物がせわしなく動いているときになぜかグラスだのビンだのを大写しにロングショットで意味深にうつしてたり。

二人の登場人物が会話しているときに、二人を対等に映したりせず、一人は鏡に映った反射だけを捉えたり。

また、完璧な構図からもたらされるきりきりとした緊張感が画面ぜんたいにみなぎり、

会話が恐ろしい程に断片的だったり、いやおうなくドラマを盛り上げるようなフィルムスコアリングが無くても、映像全体に独自のリズム感を与えていて、弛緩した感じにまったくなっていない。

というより、音楽の助けを必要とせずに成立している。なまはんかなスコアは拒絶すらされるのではないか。

ただ、状況に対する親切な説明などは無く、何となく筋書きや登場人物の会話だけを追って行けば、

”いったい何を言いたいのかわからない、” チンプンカンプン的映画になること請け合いだ。

これは視覚、聴覚、感性、全開にして、映像も音も演技もスクリプトも総合的にうけとめて、味わい、鑑賞してはじめて”理解”できた気分になるたぐいの作品なのではあるまいか。


<あらすじ>

ほのぐらい長距離列車での一行。妙齢の女性エスターと、その妹のアナ、その子供である小学生くらいの男の子、ヨハンの三人が主要登場人物。



列車内で、エスターが体調を崩し、そのせいか一行は道程の途中の外国のまちで一旦下車してホテルに滞在する事となる。

ことばの通じない異国。ヨーロッパの共産圏だろうか。始終空を戦闘機のような飛行機が飛んでおり、町中を戦車が徘徊している。

大規模な戦闘が近いのか、家財道具を大きな荷台に積んだ馬車が幾度も行き交う。

おおきな豪奢なつくりのホテルには、一行以外にはマネジャーと、逗留客では小人劇団のグループしかいないようで、がらんとしている。

アナは暑くてたまらないから、といって一人で散歩と称して町に出かける。子供をほったらかしにして。


街でうろうろしたあげく、カフェで出会ったバーテンと行きずりの関係をもって帰ってくる。とても奔放な性格のようだ。

一方、ベッドで休む姉のエスターはそんな妹の行動を察知して詰問する。

坊やはひろいホテルの中を探検して楽しんでいるようだ。言葉もわからないなりに、逗留グループの小人劇団員の部屋を偶然みつけて彼らと遊んだり、マネジャーと交流したり。




アナがホテルの部屋に帰って来て、坊やもリビングに合流。マネジャーが入ってくる。そこにラジオから偶然流れるのがJ.S.バッハのゴールドベルク変奏曲25番。



全員その曲を気に入っているようだ。一瞬の平和なひととき。

しかし、アナはその日あったバーテンの男とまた会うために、部屋を出て行く。ホテルの他の一室で男と過ごす。

その男とその部屋に入ろうとする所を息子に見られていたことも知らず。


エスターは坊やの証言から妹が男といる部屋を突き止める。部屋に入るとベッドにアナと男が一緒で、煽動するかのようにわざとらしく男といちゃいちゃするアナ。ショックを隠せないエスターの前で高笑いをするアナ。

エスターは”かわいそうなアナ”とつぶやく。



エスターがホテルの部屋に戻ったと思ったアナは高笑いからすすり泣きになる。
しかし、エスターは一晩中アナたちがこもっていた部屋の前にいたのだ。



そのせいで病状が悪化し、朝にはまたベッドに戻るエスター。





エスターは奔放なアナと違って、教養があり、父親に愛されていたと見える。職業は翻訳家だ。ヨハンがこの国のことばもすでにいくつか覚えたというエスターにお願いする。”ぼくにもその言葉を教えて。手紙に書いてね。”

どう見たって病状が深刻なのに、エスターを放ってアナはヨハンとともに,列車で行き先を急ぐと言う。

病床のエスターにお別れのハグをするヨハンを”急ぐのだから”といって引きはがし、自分では実の姉にハグすらしないアナ。

列車の中でヨハンは約束の手紙を開く。叔母のエスターが約束通り外国の言葉を書き留めてくれた。”恐れないで、とても大切な事を書いた。あなたには理解できるはず”

ヨハンはその短い手紙を読む。

その横でアナは暑い暑いと言って,列車の窓を大開にあけて、流れ込む雨と風を受け,あおいで、体をうねらすように涼む。

その母のあられもない姿を見つめるヨハン。そのときの表情はぞっとするほど冷たくなっている。

<おしまい>