崩れゆく絆、Things fall apart by Chinua Achebe | ぞうの みみこのブログ

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Things Fall Apart: A Novel/Anchor
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次回のブッククラブの課題図書について書こうと思います。

”Things fall apart” by Chinua Achebe
(崩れゆく絆、チヌア アチェベ 1930~)

1958に英語で発行されて以来、ずっと読み継がれているフィクションです。
作者のアチェベ氏はナイジェリア人。

特に英語圏では有名な本で、アメリカ合衆国での位置づけはというと、大学の教養課程で課題図書によく選ばれたり、とにかく大手の本屋さんに行くと、間違いなく置いてあって、大学教育くらいまで受けている人であれば、

読んだ事は無くとも、タイトルを耳にした事があったり、なんとなくあらすじを知っているであろう、という風な本です。みんなが知っている、常識的な文学作品、という感じです。

聞いた所では、アメリカ合衆国、イギリスでは、ある大手出版社が選んだ英語で書かれた20世紀文学ベスト100のなかに入っているとか。



時は19世紀中頃と思われる。イギリスではビクトリア女王の時代。舞台はナイジェリアの、ある大きな部族の村。

主人公、オコンクオは武勇で誉れ高い。レスリングのチャンピオン。一方、父親は怠け者で村の人にお金を借りまくっては返す当ても無い。笛が上手で人生を楽しんで生きるタイプ。でも子供には結局何も財産を残さず亡くなる。

そんな父を心から軽蔑し、父のように感情をやすやすと人に見せる事を自分に許さないオコンクオ。オコンクオにとって感情をむやみに表に出すのは、父のように弱い人間がする事。

彼は無口だが力持ちで、一生懸命働いて、一から財産を作った。

子供にも恵まれ、広い敷地に屋敷を構え、作物もたくさん収穫できる畑もある。

部族の中でも幾つものタイトルを勝ち得て、尊敬される男になれる事が出来た。

彼の人生がそのように時系列にそって展開する一方、ナイジェリアの部族内で行われていたであろう儀式や風習や、食べ物の事がいきいきと描かれて行きます。

レスリングトーナメントの様子や、結婚式の宴、雨期には水を吸った大地と水を放つ空とが一つに解け合って見える、という描写はとても美しい。


でも時折、わたしたち現代人から見ると残酷なんじゃ、と思えるような風習も描かれていたりします。

その一つが、部族の文化を信じて疑わないオコンクオがそれらの風習に従い、自分の息子同様にかわいがっていた男の子を、殺す事になるエピソードです。

呪術を司る部族のメンバーが、神様に捧げる為、彼を生け贄にしなくてはならない、と言って来たからです。

ある日、イギリスから白人の宣教師達が入って来て、部族の長老達の許可を得た上で教会を建て、しだいに部族の人間の中に信者を増やして行く。

部族の伝統とともに、生きて来た彼は当然のごとく、それら宣教師達と衝突。
悲劇が起こります。

全体をとおして、文体がまるで叙事詩のように淡々としています。部族の文化がよりよいとか、キリスト教文化の方が良いとか、どちらかに立って、一方を批判して書かれている訳でもなさそうです。

一見して、悲劇の英雄のことを淡々と伝えた昔話を読んでいるような錯覚。でもそこにあるのは、あきらかに、物語の場所、ナイジェリアの内側からの視点。外から、ははーん、おくれてるわね、野蛮だことー、みたいな視点ではけっしてなく。

かといって、自分たちの文化や歴史を情緒的に美化しようともしてない。肯定も、否定もしていない。すごい客観性。

一方、植民地化されつつある、まさにその時代にその土地に住んでいた人々のキャラクターを丁寧に描きわけてもいる。


だからこそ、そこに描かれている人々の生活や、最終的に主人公が直面する悲劇が力強く、リアリティーをもって読者に迫ってくるのでしょう。

この視点は、もしかしたら彼の育った環境によるのかもしれませんね。彼はナイジェリア生まれですがキリスト教のお家に育っています。ナイジェリアの古くからの文化も知っていたし、キリスト教も深く学んでいた。

聞いた話では、チヌア・アチェベは似たような設定での作品、コンラッドの”闇の奥”に大変批判的だったとか。

(闇の奥、"Heart of Darkness" by Joseph Conrad これはフランシス・コッポラの”地獄の黙示録”の元ネタになったことでも有名です。でも小説での設定はアフリカ奥地。映画ではベトナムに変えられていましたが。)

わたしは異なった文化の衝突とそこから生まれる個人の悲劇、というこの小説のテーマにも深く考えさせられたんですが、個人的に、昔読んだ日本文学、”夜明け前”(島崎藤村)を思い出していました。

江戸時代、ある町で家業を真面目に引き継いで発展させ、それなりに自分で学問もして地域で尊敬される地位に上り詰めた主人公が、

幕末での大変動でそれまで親しんで来た価値観や文化の大変動が起こり、狂人となってしまう。オコンクオと、その主人公を重ね合わせてしまいました。

社会体制ががらりと変わる境目には、彼らのような悲劇が数限りなくあったのでしょうね。