読書はきまぐれ | いつか大きくなるあなたへ           ~シングルファーザー奮闘中~

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シンブルファザーとなってはや5年
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はるかへ



今朝は本を読んでから出発。

読書の習慣はいいことですが、しかし、学校から本を借りてきて、読めずに返すこともしばしば。

借りるときのテンションばかりが高くて、借りただけで満足なんでしょうねえ。

旅行のミヤゲものみたいなものかなあと思っています。

それでも尻を叩きながら、読まないなら借りてくるなと怒りながら、懸命に読ませています。



【味ごときもの③】



 大分にいたときは、ホテルをとるのが面倒だと、事務所のマンションに寝泊りしていました。つかさんは、3時間寝たら3時間起きるという睡眠のとり方をしていて、朝も、ものすごく早くから起きていました。

ある朝、5時に起きると、

「すまんなあ。卵を落としたんだよ」

 とつかさんが言います。

 キッチンにいって、見ると流しと冷蔵庫の間のほんの2センチほどの隙間に器用に卵を落としていました。

 寝ぼけ眼で、生卵を掃除するのはある意味バツゲームのようでした。

 でも、自分でゆで玉子を作ろうとしたつかさんのことを思うとなんだか、おかしくもなってきました。


 大分で、大分の役者たちを集めて、すき焼きを食べようということになりました。食べたことはあるけれど、作ったことのないすき焼きを、つかさんはとにかく作れと指示しましたが、また自分でも手や口を出そうとします。

「とにかくよお、まず、焼くんだよ」

 と鍋に肉や野菜をガンガンいれて、焼き始めます。

 焼いた後、なにを思ったかつかさんは、思いっきり、水を注ぎ込みました。

「なんだ、味がねえなあ」

 というと、市販のすき焼きのたれを3、4本もいれて、ちょっと濃くなればまた、水をいれる。

 野菜はグチャグチャ。

 若い子たちには肉を食わせなくちゃいけないと、肉をそのすき焼き鍋? みたいな物の中にガンガンといれ、「食べな、食べな」と勧めます。みんなもつかさんが差し出してくれるのだからと、顔を曇らせながら必死に食べていきます。

 よくお腹を壊さなかったものです。

 次の日、事務所に来た事務の方が、こりゃ、なんじゃ、ブタか牛の餌かと思ったといっていました。

 あのとき使った肉はつかさんのところに届いたお歳暮。松坂牛でした。

 あんな高級牛を、あんなに不味く食べるなんて一生に一度あるかないかでした。

 あるとき、東京の事務所に、お中元で、マツタケの土瓶蒸しが届いたことがありました。消費期限も早いものだったので、東京事務所の人たちは、お昼にその土瓶蒸しをいただいていたそうです。

つかさんからは、「足がはやそうなもんはさっさと食べちゃえよ」といわれていたから。

 しかし、外回りをおえて事務所に顔を出したつかさんは、マツタケの土瓶蒸しが食べられたのを見て、顔を曇らせ、なにも言わずに、再び出ていったそうです。

 大分にいるとき、「あいつらよお、土瓶蒸し内緒で食ってんだよ。オレは娘にも食わせたことがねえんだぞ。もう怖くて事務所にも満足に顔だせないよ」と嘆いていました。

「おまえ、オレが嘆いていたと東京の事務所に電話しろや!」

 と叫んでいました。

 この理不尽さがつかさんでもありました。


 つかさんは食べることに関してはとにかくうるさい人でした。

 食べて体力をつけること、それが役者として一番重要なことだとも言っていました。

 



「これ食べな」

 と、食べきれないほどの量のご飯を頼み、無理にでも食べさせる。空腹には絶対にさせないという優しさがありました。

「おまえらにカツ丼の上を食わせても、オレは並を食べる。それが座長というもんだ」

 ということを『寝盗られ宗介』という芝居のセリフで書いたつかさんは、まさにそのことを実践してきた人でした。

 演劇をはじめた頃は、舞台に立っている役者の人数よりもお客さんの数の方が少ないこともあったそうです。バイトに明け暮れながら、必死になってお腹いっぱい食べられる日を夢見ていたという話もしてくれました。

 自分の辛かったことを味わわせないためにつかさんは、いい女優になるためだ、いい俳優になるためだと理由をつけて、必死になって食べさせてくれる人でした。


 遥花、おまえのお腹はプックリしています。でも、いっぱい食べていっぱい大きな子どもに育ってください。生きる力とはそういうことから生まれます。