父と娘  -50ページ目
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父、58歳

”余 命 6 ヶ 月”

担当医が無言でメモに書いた。
「短っ!!」
それが一番最初に思ったことだった。


父は、私が物心ついたころには既に深酒をし、気づけば”アルコール依存症”になっていた。
幼い頃の記憶には、楽しい思い出や幸せな記憶に紛れていつも、酒を飲めば暴れ、大声をあげ、家族に暴力を振るっていた父の姿と恐怖がある。

私と父は、何年も親子らしい会話なんてしていない。
幼い頃から何度も「死ね」「早く死ね」と思った。
何度も何度も憎く思った。
殴られた。蹴られた。酒をかけられ、首を締められた。
母も、弟も、妹もみんな。
まるっきりファシズムだった。
私はもう27歳になるが、未だにその思いが捨てきれない。
むしろ捨てたくないのかもしれない。
他人が聞けば残酷かもしれない。大人気ないかもしれない。滑稽かもしれない。
そんな子供の頃からの心の傷を癒せないまま、こんな時を迎えてしまった。
もう、父と向き合えるのもたった半年しかないのに。

父は、私を、家族を愛していたのだろうか。
私は、父を本当は愛していたのだろうか。
本当は父に愛されたかったのだろうか。

あとたった半年しかないけど、ここ数年弱っていく父を見て芽生えていた優しい気持ちに正直に、これまでの思い出と、父の最期の日までのことを記録していきたい。














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