第1 設問1
1 小問(1)
本件解雇は、解雇予告手当を支払い(Y社就業規則(以下、規則)37条2項)処分書(規則58条本文)ではなく、解雇事由証明書(規則37条3項)を発行していることから普通解雇であると解される。
(1) 解雇事由の有無
ア 普通解雇は、「身体の障害により・・・業務に堪えられないと認められたとき」(規則37条1項3号)「に認められる。もっとも、解雇は労働者の生活の糧を失わせるなど、労働者に対する影響が大きいので、事由を限定解釈すべきである。
イ Xに交付された解雇理由証明書には、解雇事由として「Xは糖尿病や内臓疾患を患っていて、疲労等を引き金に意識障害に陥ることがあり、その結果、重大な交通事故を発生させる危険性を常に有しているため」と記載されている。これは、文言上、「身体の障害により・・・業務に堪えられないと認められたとき」にあたる。そして、Xは内臓疾患と糖尿病を併発しており、悪化すると意識の混濁状態や糖尿病性昏睡状態に陥ることがあるが、適正な食生活と投薬治療を行っていればコントロールができるにもかかわらず、不摂生な生活により、通常の運転業務に支障がでている。したがって、37条1項3号の解雇事由を限定解釈しても、普通解雇事由に該当する。
(2) 解雇権濫用法理(労働契約法(以下、労契法)16条)
ア 合理性
上述のように就業規則を限定解釈しても解雇事由が認め られることから、「客観的に合理的な理由」は存在するといえる。
イ 相当性
Xは平成21年4月1日の入社以来不摂生な生活を続け、乗車前の飲酒検査で乗車不適とされたことが数度あった。Xは平成21年10月30日に厳重注意を受け、反省文を提出している。その後、平成22年6月18日に無断欠勤をした上、その翌日の乗車前の飲酒検査で乗車不適とされたことについて、懲戒処分としてけん責処分(規則58条1号)を受けている。さらに、平成22年10月20日、Xは高速道路でトラックを運転中、前日の暴飲暴食・睡眠不足がたたって軽い意識もうろう状態となり、自損事故を起こしている。この事故により、XはY社に対し二度と暴飲暴食をしない旨の誓約書を提出したが、1ヶ月後には暴飲暴食を繰り返し、平成23年1月15日には乗務開始前に意識を喪失して病院に1週間入院している。
このように、Xは約2年の間にたびたび業務不適格と診断され、Y社から生活の改善を促されている。しかし、Xの疾病は、適正な食生活と投薬治療により通常の運転業務に支障が生じない程度のコントロールができるにもかかわらず、改善の気配がない。そうだとすれば、Y社就業規則の58条の懲戒解雇以外の懲戒では効果がない。また、Xは高速道路で自損事故を起こしているが、人身事故を起こす可能性もあったのであり、人身事故を起こすと、33名と比較的小規模の会社に大きな損害を与え、社員の生活も危険にさらすこととなる。したがって、Xの解雇は「社会通念上相当」であると認められる。
(3) 解雇の手続上の問題点
Y社は即日解雇するためにはXに対し平均賃金30日分以上の解雇予告手当てを支払わなければならない(規則37条2項、労動基準法(以下、労基法)20条1項)。Y社はXに対し、基本給30日分相当額の解雇予告手当てを支払っており、有効となる
(4) よって、Xが期間の定めなく雇用された者である場合、Xに対する解雇は有効である。
2 小問(2)
(1) Xは平成21年4月1日に期間1年の労働契約を締結して雇用され、平成22年4月1日に同じ期間で労働契約を更新された者であるから、Y社とX間には期間の定めのある労働契約(第4章)が結ばれているといえる。そこで、Y社がXを平成23年1月31日に解雇するためには、「やむを得ない事由がある場合」(労契法17条1項)でなければならない。
(2) 労契法17条1項の趣旨は、期間の定めのある労働契約が締結された場合、労働者はその期間中、解雇されないことを期待するであろうからその期待を保護する一方、使用者側も期間中の労働契約は甘受すべきであることに求められる。そうだとすれば、「やむを得ない事由がある場合」とは、期間の定めの無い労働契約と比較して、より重大な事由をさすと解する。
(3) 本件においてこれをみるに、設問(1)で見たように、Xは注意を繰り返しても疾病とその原因である暴飲暴食をコントロールする気配がない。さらには、意識を失うことが何回かあり、今後自損のみならず会社に大きな損害を与える人身事故を起こす可能性もある。そうであるならば、期間を3ヶ月残しても早期に解雇する必要性、相当性があり、期間の定めの無い労働契約と比較して、より重大な事由がある。したがって、Y社には「やむを得ない事由がある場合」といえる。
(4) よって、Xが期間の定めのある労働契約を締結した者である場合、Xに対する解雇の効力は有効である。
以上