帰りたくなる場所はいつも二十歳まで暮らしていた都下の町だった。畑や土手、林に囲まれた生活からいっきに、大型トラックがバンバン飛び交う大通り沿いの下町に引っ越し、違和感が強かったのかもしれない。
だから、小・中学校もいつまでも懐かしかった。高校はさらに田舎で、畑の土埃が風に舞い、養豚場の声や匂いの中をマラソンで走っていた。
そんな私だが、最近夢に見るのは前職の夢ばかり。何十年も働いたのだ。脳に刻まれ過ぎたのだろうか。そして、やっと私の都下に帰りたい願望が消えつつあるのかもしれない。下町での生活が長過ぎ、大変なことも多かったけれど、現役で働いていた時代は充実していたのですね。そこに帰りたいかと言われると…とても充実していたが、もはや、あの頃のようには働けない。
この夏だけでも何度体調を崩したか。熱中症、胃腸炎に加えて、変形性膝関節症のためにまた膝に水が溜まり…こんな体でもう、前職には戻れません。なのに、夢に出てくるのは前職のことばかり。
「メダカ太平洋へ往け」は重松清さんの小説で、小学生が主人公になっている。メダカたちは同じ川で泳いできたが、それぞれの支流へ分かれ、別々の川で泳ぎ、いずれは太平洋を目指して。
戻りたくても元の川には戻れない。大人には大人の川がそれぞれにあり、泳ぎ続けなければいけないから。
地元に家のある同級生を羨ましく思ったりもした。支流が近いので、往来ができる。
しかし、私は隅田川や荒川の方に流れていったのだ。そして、その川のそばで、生きるために必死で働いてきた。今後もこの川沿いで、いつかは太平洋を目指すのかもしれない。とにかく違うメダカになったのだ、とこんな年になってしみじみ感じる。
膝は本当に良くなってきたので、前職には戻れませんが、嘱託のような現在の仕事にまい進しましょう。
たくさん寝られるので、今の生活の仕方はありがたいです。
前職のころはいつも睡眠不足でしたからね!
と、帰りたくなる場所が変わってきたと感じる今日この頃でした。