~今から何年か前の話~ (語り:才加)


「よーし、今日の訓練はこれで終わり。解散!
「「「「「はいっ!」」」」」」


夏教官の姿が見えなくなると、同時にくずれるメンバーの体


入隊から2年たって、やっと訓練をこなせるようになってはきたが


「相変わらず、きっついな~」


地面に横になったまま、息荒く佐江が口をひらいた


「そうだな、て、優子どこ行くんだ?」


よっこらせなんて、おっさんくさい事を言いながら、ふらふらと立ち上がり、歩きだす優子に声をかけると、


「あぁ、ちょっとな」

と、いつもの返事が返ってくる


優子の『ちょっとな』は、同じ仲間ならみんな知ってるセリフだ



「優子はタフだな~」


ごろんと寝そべったまま佐江は言うが


「タフなんかじゃねーよ。・・・見ろよ、フラフラじゃねーか」


同じ時期に入隊した優子
小さな体は不利だとされる事も、優子ははねのけてきた


知らない人は言う
「優子は、最初からなんでも出来ていいね」と


だが、私は知ってる
出来ない事を出来るように、陰で努力する。それが優子だ



◆◆◆


年に一度、自衛隊の中で、優秀な者を決める大会後
遠くから歓声が聞こえてくる
今回MVPをとった、優秀者のいるチームの喜びの声だ


「才加、優子が・・・壊れそうだよ」
「あぁ・・・」


私の目の前に、うつろな目をして、1人遠くをみつめる優子の姿がうつった
今年のMVPは、誰が見たって優子だった
今回だけじゃない、いつだって優子は毎回、誰よりも優れていた

なのに、なぜ


「なんで夏教官は優子にMVPを取らせないんだろ」
「私にもわからん。あーモヤモヤする。夏教官のとこ行ってくるっ」
「才加、その怒った顔どうにかしてから行ってね~」



◆◆


コンコンっ

「Kチーム秋元です」
「入れ」
「はい、失礼します」


ドアを開けて入ると、資料にむけられていた鋭い瞳が、私に向けられる
一瞬にして身体全体に緊張がはしったが、なぜか夏教官は私の顔を見て吹き出した


「あははは、秋元、顔が怖い、怖いっ」
「え?はぁ、す、すいません」
「あはは、それよりどうした?」
「はい、夏教官に聞きたい事が」
「大島の事だろ」
「はい」
「MVPの事か?」
「そうです。なんで優子がMVPじゃないんですか?今年は特に。優子がとるべきでした」
「そうだな。その事については本人も納得いかなかったんだろう。聞きにきたよ、優子も」


ゆっくりと椅子から立ち上がった夏教官は、窓から見える空をみつめたまま言葉を続けた


「はっきり聞きにきたよ『私は、どこをのばせばMVPが取れるんですか』『何をすれば私は認められるのですか』ってな」
「それで、夏教官はなんと」
「お前は誰に認められたいんだ?誰に褒められたいんだ?って言った」
「え?それは夏教官、貴方に認められたいに決まってるじゃないですか。その事で優子が苦しんでいるのを知ってますか!?」


「秋元」
「はい」
「私はなにも大島を認めていない訳じゃない。むしろ、私の教えてきた隊員の中では断トツだ」
「それなら・・・」
「大島は目の前に壁があれば、いくらでも越えようとする。『どこをどうすれば』と考えてる間は、いくらでも伸びる。あいつもどこが終着点で、どこまでが限界なのか分かっていない。だから、あえて私はあいつを褒めない。認めたら、そこで止まってしまいそうだからだ。今、大島が苦しんでいるのは知っている。だが、秋元、大丈夫だよ。乗り越える力を、大島はもっている」


「・・・夏教官」
「この話、大島には内緒な」


窓から視線を外し、私の方へ向き直った夏教官の顔には、笑みがこぼれていた



ここまで夏教官に思われている優子の事が、うらやましく思えた
だが、優子にしか出来ない事なのかもしれない


イジケル事無く、自分に負荷をかけ、負けない、諦めない根性。誰もが真似できる事ではない
優子の素質、本質を見抜いて、あえて厳しくいく夏教官


「はい、わかりました。夏教官、ありがとうございました」
「あははは、秋元、お前もキャプテンらしくなってきたな」
「はい、ありがとうございます」
「ああ、明日も厳しいぞ。しっかり身体を休めろ」
「はい、失礼します」


最初にこの部屋に入ってきた気持ちとは反対に、スッキリと晴れやかな気持ちだった



元の場所に戻ると、まだ心配そうに優子を見つめる佐江


佐江、優子なら大丈夫だよ

乗り越えるよ
そう信じてあげなきゃ、私達は親友とは言えないぜ



それとな、優子
知ってるか?

夏教官が後輩を指導する時に、必ず言う言葉を



『大島の、背中を見て学べ』


これって、最高の褒め言葉だぜ