携帯をひろげ時間を確認する
陽菜と約束した時間まであと30分

ほんとはこんな事したくない。陽菜を誰にもとられたくなんかないよ
だけど、このままじゃ陽菜は幸せになれないから


分かってたよ、陽菜が篠田の隣にいてくれるのは愛じゃなくて同情だって
それでも陽菜を手放せなかったのは、篠田は陽菜を愛していたから


今日は、陽菜との思いでがつまったあの部屋にすぐに帰る気にはならなくて
夜の街を当てもなくフラフラ歩く
そのうち、ふと立ち寄った本屋で見覚えのある顔に出くわした
気まずそうな顔をしてる。そりゃーそうだよね、初対面であの失態だもん


「あっ、えーと・・・あっちゃん?」
「あ・・・お久しぶりです」


あー、そうだよね。やっぱ警戒するよね
苦笑いをして頭をポリポリかいてると

さっきまで硬かった表情から
「今日は酔ってないんですね」って、ふわりと笑って言った


その後、篠田の周りをキョロキョロ見て「今日はお一人ですか?」と聞いてきた
「今日は一人・・・きっと明日も一人かな」って自称気味に笑った
そんな篠田の答えに『小嶋さんは?』って聞かないのは、彼女の優しさからなのかも
そんな彼女の優しさにもう少し甘えたくて

「この後、時間あるかな?」って誘ってみた。勿論、断られる覚悟だけど
そんな予想とは裏腹に「いいですよ」と言って、笑う彼女に心が少し救われたような気がした






「はぁ・・・」
「5回目」
「え?」
「篠田さんのため息の回数」
「あ、ごめん」
「ふふ、謝らないでいいですよ」

篠田お気に入りの静かなバーのカウンターに二人で座って、失礼ながら篠田の口からはため息しかでてなかったようだ。

「なにかあった?」そう言いたげなあっちゃんの顔
でも、ごめん。今、それを話したら篠田きっと泣いてしまうから


「はぁ・・・」6回目のため息をつきながら携帯を開いたり、閉じたりを繰り返す
時間はすでに約束の20時を過ぎていたから、篠田から電話するべきか、それか待ってれば向こうから電話がくるはずだ。「はぁ・・・」7回目のため息。篠田の今からする事にほんとに後悔はないのか
自問自答しても答えは明確で。篠田の為じゃなく陽菜の為の行ない。だから後悔はしない

そう決めてるのに、決めたのに心はまだ揺れている。我ながら往生際が悪い

こんな篠田の側で、何も言わず何も聞かずのあっちゃんってすごいかも。そう思ってると手に握ってた携帯が震えた。映し出された着信の名前
それだけで愛おしく、胸が締め付けられる
でもね、篠田は決めたんだ



ねぇ、陽菜、初めて会った時から今も変わらず好きだよ
でも、愛するがあまり途中で自分を見失ってしまった。
結果、陽菜に自分の思いをおしつけて、傷つけちゃったよね
こんなの愛じゃないよね。
だから、もういいよ・・・・
最後くらい、陽菜の事をちゃんと愛させてくれるかな




携帯に表示された愛しいあの子の名前を見ながら

最後に大きく深呼吸をして、電話をとった






陽菜との電話を切ると
涙がとまることなく流れていた
電話の途中から握ってくれたあっちゃんの手が温かくて

だからごめん、今日はその行為に甘えさせてもらうね



逆上がり(優子推しブログ)


『愛してたよ。陽菜』