「今日から陽菜バイトだっけ?」
「うん、そう」
「そっか、頑張ってね」
親から、大学生にもなったんだから携帯代くらいは自分で稼ぎなさいって言われ、今日が初日
「めんどくさがりの陽菜が続くかな」なんて麻里子が笑いながら心配してるけど、正直、自分でも自信ない
外観が素敵、それだけの理由で選んだちょっとお洒落な居酒屋で働くことになった
中に入ってびっくり。だって、そこに優子が居たから
「あれ!?今日から入ってくる子って、陽菜?」
「あ、うん、今日から。優子もここでバイトしてたの?」
ものすごい偶然に驚いた。だけど、知ってる顔があって一安心
1日目は、お酒の種類、食べ物の種類、接客の仕方、覚えることがいっぱいでかなり疲れた
だけど、なんでかな、優子の笑顔を見ると、その疲れが少しだけとれる
店が混んで、話す暇もないけど、アイコンタクトでなんとなく会話できるのも楽しい
ラストオーダーの時間がきて、そこからは少しだけ余裕ができた
(ふーーっ・・・)ずっと、動きっぱなしだったからさすがに疲れた
「お疲れさん、大丈夫?」優しい声がして
顔をあげると、笑顔の優子
「うん、どうにか大丈夫」
「1日目だしね、大変だったでしょ?」
「うん、でもどうにか陽菜でも続けられそう」
「そ?(笑)じゃ、頑張ろうね」
続けられそうって思ったのは、優子が居たから
忙しくて、くじけそうになる心を常に優子が励ましてくれたから
混雑する中、すれちがう時、小さな声で「頑張れ」って言ってくれた
お客に文句言われ、沈んで戻ってきたとき、背中を優しくなでてくれた
そんな小さな優しさに救われた1日だった
次の日に麻里子から
「優子とバイト一緒だったんだって?」って電話があった
「わたしも一緒のとこで働きたいけど、ガヤガヤうるさいとこはムリだな」とも言っていた
確かに、麻里子にはムリだ
て、いうか陽菜もムリだと思っていたけどね
でも、さすがに1ヶ月もたつと慣れてきて、楽しい
だけど、あらためてじっくり観察すると、この居酒屋、可愛い子ばっか働いてる
面接の時、顔で選んでんじゃないってくらい
その中でもだんとつ、お客に人気があるのは優子
優子は、どんな相手でも、顔色変えることなく、平等に対応する
手をすりすりしてくるエロじじいも、うまく笑顔で返すとことか、ほんと感心しちゃう
それと、優しい。昨日なんか同じバイトの子がめちゃくちゃお客に怒鳴られてるのを助けたし
優子が悪い訳ではないのに、一緒に謝って、最終的には、その怒鳴ってるお客を笑顔にしちゃう。
優子マジックだよ
そんなこんなで優子が人気あるのは、お客だけではなく、バイトの子達にも人気があった
「優子」「優子さん」あっちこっちから呼ばれる優子の名前
(優子って、モテるんだ)陽菜にだけ優しくしてたんじゃないんだって思うと、なんかむかついた
「陽菜、お疲れ!」
「お疲れ・・・」
疲れと、なんとなくむかつく心が声に出たみたい
たまにしかでない低い声に優子もびっくりしてる
「どうした?なんかあった?誰かに嫌なことされた?」
キラキラ綺麗な瞳で聞いてきたその顔は、眉を下げ、かまってほしい子犬のようにオロオロしてる
それがおかしくて吹き出してしまった
「えー?笑うとこ?本気で心配してんのにさ」
次は風船のように顔を膨らませてる。子供か!
声を出して笑った。久しぶりかな、こんな大声で笑うの
そんな陽菜を見て、安心したみたい
いつもの笑顔の優子が目の前にいた
「陽菜って、猫みたい」
「え?陽菜が?」
「うん、なんか・・・うん、猫っぽい」
「小動物系は優子の方でしょ」
「小動物・・・言われなれてるけど、陽菜が言うと、なんかキツっ」
「(笑)ごめんね、ゆうちゃん」
「あ、それいい!その呼び方いいね」
「そ?んじゃ、これからゆうちゃんって呼ぶね」
「んじゃ、あたしは・・・にゃんにゃんって呼ぼうかな」
「にゃんにゃん・・・センスなさすぎ」
「にゃんにゃん♪ニャンニャン♪」
こんなくだらないやり取りでも楽しい
次第に陽菜はゆうちゃんと居られるバイトの時間が楽しみに変わっていた
