うつ病(うつびょう、鬱病、欝病)とは、気分障害 の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患 である。

アメリカ合衆国 の操作的診断基準である DSM-IV-TR などでは、「大うつ病」(英語 : major depression)と呼ばれている。

うつ病は、従来「こころの病気」とされてきたが、最近の研究では「脳の病気」ととらえ、うつ病患者の脳内に不足している脳内物質(ドーパミンノルアドレナリンセロトニン など)の分泌を促進させる薬物療法などが主流になってきている。

あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在する。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10%程度とされている。

なお、男女比では、男性より女性のほうがうつ病に罹患しやすいとされている。

世界保健機構 (WHO) の診断基準については、ICD-10による気分障害の分類 を参照。

概要

うつ状態には、次のような性質のものがある(うつ状態を呈するからといって、うつ病であるとは限らない)。

  • 一過性の心理的なストレスに起因するもの(心因性のうつ、適応障害、急性ストレス障害、PTSDなど)
  • 統合失調症パニック障害 など、他の疾患の症状としてのもの
  • 季節や生体リズムなど、身体の内部の変調によって生じるもの(内因性うつ病)

こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面でうつ病として扱われるのは DSM の診断基準に従って、「死別反応以外のもので、2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈している」というある程度の重症度を呈するものである。

疫学

DSM の診断基準を用いたうつ病の有病率についての 12 の疫学的研究を見ると、ある時点で過去1ヶ月以内にうつ病と診断できる状態であった人の割合は、1.0% - 4.9%であり、おおむね約2.8%が平均的な調査結果であった。

また、生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、近年の研究では15%程度という報告が多い。また、日本2002年 に行われた1600人の一般人口に対する面接調査によれば、時点有病率2%、生涯有病率6.5%とされている。

これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。

症状

うつ病の症状を理解するには、大うつ病についての DSM-IV の診断基準を参照すると良い。

DSM-IV の診断基準は、2つの主要症状が基本となる。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。

「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。

「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。

この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされている。

これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・希死念慮」などがある。これらのグループの症状をまとめると「気分が落ち込んで嫌な毎日であり、自分には存在している価値などなく、死にたいと思う」という訴えとなる。

「興味・喜びの喪失」と類似した症状としては、「気力の低下と易疲労性」、「集中力・思考力・決断力の低下」がある。このグループの症状をまとめると「何をしても面白くなく、物事にとりかかる気力がなくなり、何もしていないのに疲れてしまい、考えがまとまらず小さな物事さえも決断できない」という訴えとなる。

さらにこれらの精神症状に加えて「身体的症状」として、食欲、体重、睡眠、身体的活動性の4つの領域で、顕著な減少または増加が生じる。訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていれない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。

DSM-IV では、主要症状1つを含む5つの症状が2週間以上持続することが、大うつ病診断の条件となっている。

子供のうつ病

12歳未満の児童期は 0.5% から 2.5%、12歳から17歳の思春期以降では、2.0% から 8.0% の有病率が認められる。

軽症のうつ病ではいらいらしたり、少し落ち込んでいるようにみえたりするだけでうつ病体験を言語化しないことが多く(発達段階によっては出来ない)、頭痛や腹痛等の身体症状や不登校等の行動面での変化が特徴である。

投薬治療は三環系抗うつ薬を少量、慎重に増量することが推奨されている。

親子関係の見直しや、学校との連絡などで環境を整えること、遊戯療法箱庭療法 などの非言語的精神療法等を投薬と同時に行うことがもっとも効果があるとされている。

分類

うつ病・うつ状態には、様々な分類がある。

まずうつ状態そのものの分類は大きく分けて、症状の重症度で区分する分類と、成因で区分する分類に分かれる。

  • DSM-III以降の米国精神医学会のうつ病分類では、うつ病性障害は、「ある程度症状の重い大うつ病」と「軽いうつ状態が続く気分変調症」に2分されている。
  • 一方古典的分類では、疾患の成因についての判断が優先され、「心理的誘因が明確でない内因性うつ病」と、「心理的誘因が特定できる心因性うつ病」の2分法が中心となっている。狭義には前者が’うつ病’とされ、心因性のものは‘適応障害’などに分類されることが多い。

DSMなどの症状のみで判断する分類は、客観的であり、研究には適している。一方、臨床場面では、心理的誘因の評価は不可欠であり、むしろ治療的にはこちらの判断のほうが重要である。例えば、‘心因性のうつ’では原因から遠ざかれば一晩で元気になる可能性もあり、治療や環境変化などへのレスポンスが大きく異なっている。

  • さらに、うつ病の長期経過による分類がある。すなわち、躁状態を呈する躁うつ病、うつ病を繰り返す反復うつ病、再発のない単一エピソードうつ病の区分である。まず、長期経過の中でうつ状態に加えて躁状態も生じる場合には、躁うつ病 (別名:双極性障害)と呼ばれる。これに対して、うつ病を繰り返し生じる場合には、反復性うつ病 と呼ばれる。この反復性うつ病は、遺伝研究などによって、躁うつ病と根本的には同一の疾患であるとされている。一方、再発のないうつ病は、単一エピソードうつ病 と呼ばれ、躁うつ病とは異なった疾患であると考えられている。

経過

「誰でもかかる可能性がある」「かかりやすい」ことを表した『うつ病は心のかぜ』という言葉が、一部において「うつ病は簡単に治る」という誤解に繋がっている。

かつては、電気けいれん療法 しか効果の証明された治療法が無かった、その後、抗うつ薬などの登場で薬物療法 が発達した。過去に比べれば、うつ病に対する治療法は確立されてきている。

うつ病では、6ヶ月程度の治療で回復する症例が、60ないし70%程度であるとされ、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では25%程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。このように、様々な経過をとる可能性があることは認識しておく必要がある。