この前に録画したEテレのETV特集「鍵をあける 虐待からの再出発」をやっと見ることができました。

今回の特集の舞台は知的障害者施設の中井やまゆり園です。

中井やまゆり園では、神奈川県が行った調査によって、自傷や他害など強度行動障害が見られる入所者を長時間にわたり施錠した居室に閉じ込める虐待が数多く報告されました。

今回の放送では今までの支援方針を変え、一人一人の入所者と向き合い、模索しながら新たな暮らしをつくろうとするやまゆり園の2年間が記録されています。


私は放送を見てまず、自分はまだまだ勉強不足だったことをハッとさせられました。

私は心のどこかで重度知的障害の人は何もできないし何もわからないと思ってしまっていたのですが、そんなことはありませんでした。

自分がどういう感情を向けられて、どういうことを言われているのかちゃんとわかりますし、こちらが真摯に向き合えば、自分の気持ちを伝えようと一生懸命になってくれます。

自傷や他害行為だってそうするに至った理由が必ずありますし、支援者側の工夫次第で利用者さんができるようになることもたくさんあります。

何もできないし何もわからないという認識は、重度知的障害者を同じ人間として見ていないことと同義だと感じました。


私はたまにYouTubeで、「Yasu familyチャンネルさん」と「このらぶチャンネルさん」を視聴させていて、この2つのチャンネルにはそれぞれ翔くんとこのはちゃんという重度知的障害をもつ方が登場しています。

動画での翔くんとこのはちゃんは、こちらの言うこともある程度は理解できていてコミュニケーションもとれますし、作業所や事業所にも通えてました。

でも未熟な考えしかもっていなかった私は、「重度知的障害でも翔くんとこのはちゃんは特別なんだな」と思ってしまいました。

だけどそれは大きな間違いでした。

今なら翔くんとこのはちゃんは適切な環境にいるから、自分の力を発揮できているんだとわかります。

皆さんももしお時間があったら、この2つのチャンネルに翔くんとこのはちゃんを見に行ってみてください。

そして、やまゆり園には90人のこのはちゃんと翔くんがいて、1日のほとんどを真っ暗な何もない部屋で1人で閉じ込められていたと想像してもらえると、やまゆり園の入所者が今までどんなに苦しい思いをしていたかわかっていただけると思います。

12歳で親元を離れ、施設や精神病院で身体拘束を受けてきたひろしさんという入所者の男性は、番組の中で「人間に生まれたくなかった」と自分の気持ちを吐露していました。

彼らは毎日を何もわからないまま生きているわけじゃない。

辛い気持ちにもなるし、トラウマを抱えたりもするし、複雑な感情を持ったりもします。

でも彼らは障害のせいでそれをうまく表現できないだけです。


多くの医療福祉者が、自分が患者や障害者にしている支援や提供している環境に何も疑問をもっていないと思います。

昔からこの方法でやっているからと、自分達が患者や障害者に長く行ってきたことを見つめ直そうとする医療福祉者は少ないように感じます。

今回、やまゆり園でのプロジェクトの中心メンバーだった大川さんみたく、「おかしくないか?」と疑問を持ち、自分で動いて変えようとしてくれる方は、医療福祉者を500人集めてやっと1人いるかなというぐらい本当に少ないと思います。

以前、私は前の担当の訪問看護のスタッフさんに

「慢性期病棟で院内散歩の時間が急性期病棟の半分になるのはおかしいです。慢性期病棟は急性期病棟で過ごして安定した状態になった患者さんが入院するところなのに」

と言ったことがあります。

そしたらそのスタッフさんからは

「慢性期病棟では院内散歩の時間が少なくなるのが普通なんだよ」

と返ってきました。

改革プロジェクトに取り組む前のやまゆり園の職員さん達も、このスタッフさんと同じような感じで何かが麻痺してしまっていたのではないかなと思います。

「今までだって極力刺激を与えない方針でやってきたんだから、真っ暗な部屋に20時間閉じ込めておいてもおかしくない。むしろこれが正しい支援なんだからそうするのが当たり前」

的な感じになっていたのではないかと思いました。


日本の福祉はまだまだ発展途上だと思います。

医療福祉を志す人が重度知的障害者に対する正しい支援方法を学べる体制が整っていません。

番組では、強度行動障害のある重度知的障害者でも、大川さんの施設のプログラム(日中の作業や職員からの声かけ)を受けると、強度行動障害が収まりグループホームで暮らして作業所にも行けるようになる人も多いと紹介されていました。

ということは子供から大人になる過程でも、強度行動障害が出ている重度知的障害の子供に同じプログラムを受けてもらったら、親元から離れなければいけなくなった時に、施設入所ではなくグループホームに住んで作業所に通うという選択肢も選べるのではないか。

そしてその選択肢ならば親御さんも心身ともにギリギリまで追い詰められる前に、お子さんと離れて暮らそうと思えるのではないかと思いました。

そうすると養護学校での教育カリキュラムを見直す必要もあるのではないかと感じます。


国も支援を見直してほしいです。

まず施設の人員を増やして職員さんの給与を上げてほしいです。

ただでさえ大変な仕事なのに、割に合っていない給与と、仕事内容と釣り合っていない職員数がますます業務を過酷なものにしています。

今の職場環境では、職員さんの精神がすり減ることで、おざなりな支援になってしまうのも当たり前だと思います。

あと、人事異動で強制的にやまゆり園で働かせるのはやめたほうがいい気がします。

人事異動で強制的に配属された人に、熱い情熱をもって利用者さんと真摯に向き合うことを求めても難しいんじゃないかと思います。

それに数年ごとに職員さんが変わったら利用者さんも負担になると思います。

できれば自分で志望してきた人にやまゆり園で働いてほしいです。

そして、重度知的障害者を支援したいと思ってくれる人を増やすためにも、医療福祉の学校で重度知的障害者への正しい支援のあり方を教えてほしいです。


ちなみにやまゆり園では、改革プロジェクトを通して話しかける内容を変えたり、日中に作業をしてもらうように支援内容を変えた結果、ある利用者はグループホームで暮らして作業所に通えるようになりました。

先ほど少し紹介したひろしさんも、プロジェクトの前は強度行動障害が酷かったのですが、番組の最後ではバスに乗って外出し、みんなで畑仕事をしていました。

番組の最初に虚ろな目で職員に向かって攻撃していた人と同一人物だと思えないくらい、彼の表情は活き活きとしていました。