埃っぽい車道を外れて、森の中へと向かう小径を歩いて行ったの。目的の民宿までは遠くなるけれど、直射日光を浴びるよりは、木漏れ日のレーザーを享ければ、あたしの顔に多過ぎる黒子だって、消えてしまいそうな、そんな効果が得られそうな気がしたものだから・・・。

楓が落葉前の紅葉を成していて、目を癒してくれている、、、でも、この種類は、樹液が甘くない・・・。日本にも、極上のメープルシロップが手に入れ易くなれば好いのに、って思う。

風が絶妙な感じに通り過ぎて、葉音が心地よく響いてくる。まるで、木々同士が話し合っているようだ。あたしも仲間に入りたいな、そう残念がりながら、本来の目的など失念してしまい、更なる奥の、わき道の方へ歩いて行くと、ぽっかりと開けた、二十畳程の空間へと出た。この場所の中央に、勇壮に一本のみ、あたしの三人分ぐらいの高さで、咲き満開の枝垂桜が立っていたのだ。

こんなの、自然には生まれないものだ。間違い無く、人の手が働いている筈、、、、でも、何て素敵な仕掛けなんでしょう? その意図が何で有れ、正体不明の誰かに、感謝せずにはいられない。

桜の花びらが舞い落ちる中を抜けて、あたしは歩を進め、樹の幹に寄り添った。傲慢かも知れないけど、自分だけの物のような気がして、愛着を感じつつ、何故か甘い香りが樹の肌に、キスした。

「おい、お嬢さん」

え? あたしの事? あたしに話し掛けてるの? まさか、この桜の樹が・・・?

「そう、あんただよ、お嬢さん」

まあ、桜の妖精が話し掛けてきてくれるなんて、、、、何て素晴らしい奇跡・・・! いいえ、こういう場合、何らかの使命が課せられるのに違いない。うん、悲劇な運命を知らされても、それに屈せず、屹度、過酷な務めだとて果せる筈、、、、覚悟は出来ています。さあ、仰って下さいまし。

「自分の顔を鏡で見てから、出直して来な」





以来、この女性、、、、妖精の類は信じなくなったんだそうな。でも、折角、妄想するなら、自分の都合良く、仕立て上げればいいのに・・・。生来のリアリストで、向いてなかったのかも知れない。

何て不自由な、人間の認識力・・・。

彼女が葬り去ったワンダーキャラに、心からのご冥福をお祈り致します。