森の中、男が一人、奥へ奥へと入り込んで行く。
しかし、何やら、呼び掛けるような声が聴こえて、男は立ち止まる。辺りを見廻すも、人影は認められない。
「・・・助けて下さい。・・・お願いします」
そろりそろり、声のする方へ近づいて行くが、やはり、何の気配も感じられない。
「・・・ここです」
ふと気付けば、木々の、枝と枝の間、大きな蜘蛛の巣が張られていて、何かが捕われていた。
(・・・蝶?昆虫が話し掛けて来た訳か?)
よく見ると、信じ難い事に、羽を供えてはいるものの、それは妖精だった。
少なからず、男は戸惑いを見せたが、状況を察して、妖精を蜘蛛の巣から切り離してあげる。
「ご親切に有難う御座います」
妖精はホバリングしながら、男への感謝を表した。更に、「贈り物(永遠の命)を授けたい」との事で、その為、男は、<妖精の国>への招待を受ける。
一旦、男は断ったものの、執拗に誘われるので、無気力なまま、済し崩しに了承する。
妖精は、森の奥、猶も深い場所に在る沼の前迄、男を連れて来た。
「この下に、<妖精の国>が存在します。飛び込んで来て下さい。私は、先に参ります」
次の瞬間、既に、妖精の姿は消えていた。
一方的で、唐突な話の展開だったが、男は一切の躊躇なく、言われた通り、沼の中に飛び込んでみせた。
大きな波紋が立ち、暫くの間、泡が浮かび上がってきていたが、それも次第に減って、遂には、元の、なだらかな水面に戻った。
すると、再び、妖精が姿を現した。そして、静かな沼の様子を確かめつつ、突然、哄笑し始めた。
「馬鹿な奴だ。此処で、700年以上も人間を騙してるけど、こんな、呆気ない事例は初めてだな。おや? 戻る積りだったのか、ご丁寧にも、靴を脱いであるよ。文らしき物が添えられてあるし、飛脚風情だったんだね。人様からの預かり物を請け負っていながら、誘いに乗ってくるなんて・・・。全く、欲に塗れた男だよ。人間の中でも、取分け空け者だったに違いない。ただ、面白みに欠けたな、張合いが無いというか・・・。何しろ、自分から死にに来たようなもんだしな」