h-4 パン屋になって4年目のある日。一番の幼なじみと、夜、飲みに出かけたその帰り道。

馴染みのラーメン屋で、いつものようにくだらない話をしながら、いつものラーメンを食べるいつもの景色。


そう、ふと気付いた変わらない景色の理由は、

カウンター越しに

店主を挟んだ奥の壁に置かれたピカピカの冷蔵庫の扉。

「もう何年も通ってるのに、そういえばいつもピカピカだよな。手のあとひとつ付いてないし。きっと中もきれいなんだろなあ。」

急に、みるみる酔いが醒めていくのを感じました。


「俺、この親父に負けてる。おんなじ食べ物商売してて。」

 一通りの仕事を形だけはこなせるようになって、

すっかり一人前のつもりで、

「店ぐらいいつでも始められる。」

と天狗になり始めていた僕は、

「たかが酔っぱらい相手のラーメン屋。」

と、バカにして見下していたにちがいない。


そんな思い上がりを、

脳天からぶん殴られた気分で、

黙って帰りました。


それ以来、厨房のステンレス製の扉の無機質な輝きは、仕事に向かう自分の姿勢のような気がして、どんなに疲れていても気になります。 ぱん衛門