- Eric Carmen
- All by Myself
その日、
いつものように彼女の部屋を訪れた僕は、
ドアを開け放したまま立ちつくした。
5才の娘と暮らす、
僕より8つ上の彼女がいるはずの空間がもぬけの殻になっていた。
通路にあった子供用の自転車もなくなっていた。
「あなたといるとたくさんの夢を見るわ。
でもね、
その夢のために、
あなたは夢を捨てちゃいけないの。
合い鍵は郵便受けの中に入れておいて下さい。
ありがと。」
彼女がいちばん親しかった友人を問いただすしか手はなかった。
しばらくは、何も知らないと言い張った。
「あの子はさ、
自分に見合うサイズの幸せをえらんだのよ。」
僕に内緒で、『お見合い』をして、
二度と逢えないほど遠くに住む、
ひとまわり年上の男のところへ嫁いだのだと、泣きながら聞かされた。
シャッターが下りた、
街灯だけがヤケにまぶしい、
ひとけのない商店街を歩いた。
エリック・カルメンの『All by myself』がエンドレスで流れていた。
怒りが悔しさに、
悔しさが情けなさに変わっていく。
♪When I was young
I never needed anyone
And makin’ love was just for fun
Those days are gone・・・
歩きながら酒を飲んだ。
「二度と女なんかに惚れるかぁ!」
叫びながら飲んだ。
叫びながら歩いた。
2升ちかくの酒を飲み尽くした頃、
意識が遠のいて、
通りのはずれでぶっ倒れて、
側溝に落ちていたらしい。
なのにさ、
そんな「誓い」も、
たった4ヶ月で崩れ去ったのだった。 パン衛門