omzk この店を始めて、4ヶ月ほどたった頃のことです。


「ここ10年、あちらこちらから高額のオファーと共に高く評価されてきた自分の仕事ならば、日本一立地の悪い場所だろうが、すぐに結果は出せるさ。」


 のうてんきで、高慢ちきな天狗をそのまま絵に描いたような男にも、そろそろタカをくくるには限界が近くなっていました。


その日の午後、店の前に横付けしたタクシーから降りてきたのは、

『ペンキ屋』を営む母方の叔父夫婦。


「おう。電話で声聞いたら、顔見とうなってな。

苦労してるみたいやな。」


おもむろに叔父がポケットから取り出したのは、前年度の確定申告書のコピー。


「うちもな、初めて営業が赤字になった。さぼってる訳やないんやけどな。そういうご時世や。おかげと、若い頃からしゃにむに働いて持った「アパート」の家賃が入るさかい、なんとか食うていけてる。」


「・・・。」


「おまえがどんなに頑張ってるかは、よぉ知ってる。おまえの親よりわかってるつもりやで。そんなヤツに、『まだまだや、もっと頑張れ。』とは、ワシは言わん。あとは、おまえが生まれ持った『運』や。きっとな、なんとかなる。心配せんでええ。」


それまで、

叔父の目をまっすぐに見つめて、

話をダマって聞いていた自分の首が、

ゆっくり前に折れていく。

テーブルの上に、

ボタボタ涙が落ちた。


「それでええ。ほな帰るわ。」


その直後から、緩やかに店は軌道に乗り始めた。

不思議だった。 パン衛門