「ここ10年、あちらこちらから高額のオファーと共に高く評価されてきた自分の仕事ならば、日本一立地の悪い場所だろうが、すぐに結果は出せるさ。」
のうてんきで、高慢ちきな天狗をそのまま絵に描いたような男にも、そろそろタカをくくるには限界が近くなっていました。
その日の午後、店の前に横付けしたタクシーから降りてきたのは、
『ペンキ屋』を営む母方の叔父夫婦。
「おう。電話で声聞いたら、顔見とうなってな。
苦労してるみたいやな。」
おもむろに叔父がポケットから取り出したのは、前年度の確定申告書のコピー。
「うちもな、初めて営業が赤字になった。さぼってる訳やないんやけどな。そういうご時世や。おかげと、若い頃からしゃにむに働いて持った「アパート」の家賃が入るさかい、なんとか食うていけてる。」
「・・・。」
「おまえがどんなに頑張ってるかは、よぉ知ってる。おまえの親よりわかってるつもりやで。そんなヤツに、『まだまだや、もっと頑張れ。』とは、ワシは言わん。あとは、おまえが生まれ持った『運』や。きっとな、なんとかなる。心配せんでええ。」
それまで、
叔父の目をまっすぐに見つめて、
話をダマって聞いていた自分の首が、
ゆっくり前に折れていく。
テーブルの上に、
ボタボタ涙が落ちた。
「それでええ。ほな帰るわ。」
その直後から、緩やかに店は軌道に乗り始めた。
不思議だった。 パン衛門
