CREAM 最近、知り合いが二人、営んできたパン屋を閉店することになりました。

二人とも元々は専業主婦。

1人は僕がいた店のお客さんだった人。 1人はいっしょに働いたことのあるパートさんでした。

どちらもカルチャースクールでパン作りを学び、家庭でコツコツと熱心にパンを焼く、パンが大好きな人たちです。それぞれのスクールで講師の資格を取り、生徒を集めて教えることをしている、と聞いていました。


ところが、数年して、ちょうど同じような時期に、パン屋を始めることを知らされました。

自分の作るパンを、知人や友人、親戚たちから、

「下手なパン屋より美味しい。」

と言ってもらえるようになったから、いっそお店を始めようかな、と。

すでに貯蓄やご主人の退職金をつぎ込んだお店は、ほぼできあがっていて、試し焼きのパンに添えられたそういう内容の手紙が届いたのです。

詳しい状況が分からないながらも、一抹の危なっかしさは感じましたが、とやかく言える筋合いのモノでもないですし、お祝いの言葉しか返すことはできませんでした。


それから一年ほどして、また同じような手紙を二人からいただきました。

「日々の仕事は想像以上にキツく、パンを作ることが楽しめなくなってきています。」


「下手なパン屋より美味しい。」

 どうやらこの言葉は魔力を持つような気がします。


 今また、3人の人から同じような相談を受けていますが、

「『下手なパン屋よりおいしい』は、『上手なパン屋よりおいしくない』ってことでしょ。だってほら、僕のパンにはゼッタイかないっこないって思うから、こうしてパンを買いに来てくれるんじゃないですか。」

と、ニコニコしながらさらっと言ってしまうことにしています。

 たしかに、他人の人生に踏み込むようなお節介はするべきじゃないのでしょうが、これが僕に出来る最善のアドバイスのような気がして。 パン衛門